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インタビュー「手数料低く抑えステーブルコインで『滑らかな経済』を」岡部典孝・JPYC社長
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法定通貨の価値に連動した電子決済手段「ステーブルコイン」。その国内第1号の決済を目指すスタートアップ、JPYC(東京)の岡部典孝社長に、社会に与えるインパクトや現在の取り組みについて聞いた。(聞き手=荒木涼子・編集部)
── 日本で昨年6月、改正資金決済法が施行され、法定通貨の価値に連動する「ステーブルコイン」が電子決済手段として位置付けられた。
■電子決済手段を法制度化したのは世界で日本が初めてだ。これまで法定通貨の決済は銀行が中心となっていたが、安全性が高い一方、効率性、利便性はまだ向上の余地があった。ステーブルコインとしてイノベーションを起こしやすい形を、国が認めてくれたと捉えている。海外ではドルの価値を裏付けとした「テザー」(USDT)やUSDコイン(USDC)といったステーブルコインが発行されているが、日本のように電子決済手段として法制度化はしていない。
── 電子決済手段としてのステーブルコインは、電子マネーや銀行預金と何が違うのか。
■まず、電子マネーは資金決済法上の「前払式支払手段」であり、ユーザーが一度、現金を電子マネーに変えれば、原則として同額の金銭には払い戻せない。一方、電子決済手段では払い戻すことができる。また、銀行預金は現金に払い戻せる点では同じだが、ステーブルコインならステーブルコインのまま不特定多数とやり取りができる。
銀行では同じ銀行の口座を持たない限り、手数料なしでは送金できない。電子マネーも基本は同じアプリ同士でしかやり取りできない。ステーブルコインだと共通の口座やアプリがなくても、ネット環境に入れさえすれば技術的には流通させられる。個人の財布のような感覚で使え、ブロックチェーン(分散型台帳)技術を使うため偽造も難しい。
匿名性は「選択次第」
── どんなケースで使用が想定されるか。
■貿易などのビジネスにおいて億円単位の取引で使う場合と、個人や小規模事業者が数万~数百万円の単位の金額を決済する場合とに分かれると考えている。ステーブルコインの利点の一つが、ブロックチェーン技術によって決済手数料を1%未満とかなり低く抑えられる点だ。通常のキャッシュレス決済ではキャッシュレス事業者が手数料を2~3%、業種によっては5%程度の手数料を取っている。
決済手数料が下がれば、事業者の収益が上がりやすくなる。特に事業を立ち上げて間もないスタートアップ企業にとって、利益が上げられない中での高い手数料は影響が大きい。余裕資金が少なければイノベーションも起こりにくい。手数料がほぼゼロとなれば、開発投資に回しやすくなる。また、送金手数料も安くすることができるため、ステーブルコインは「滑らかな経済」を実現できると考えている。
── なぜ手数料を抑えられるのか。
■ブロックチェーン技術によって、純粋に運用コストが下がる。これまでは銀行などの決済事業者が自前でシステムを構築し、銀行間の資金決済ネットワークも作っていた。しかし、システム開発やセキュリティーだけでも多額のコストがかかり、大きな資本を持つ事業者でなければできないビジネスだった。これが決済や送金手数料な…
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週刊エコノミスト
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