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世界に日本を発信し続ける「パリ日本文化会館」が面白い

日仏協力・官民協同で1997年に開設したパリ日本文化会館は、四半世紀以上にわたる活動で日仏文化交流の実績を積み重ねてきた。会館を支える民間組織「パリ日本文化会館・日本友の会」の早川茂会長(トヨタ自動車副会長)と、会館を管理・運営する独立行政法人国際交流基金の黒澤信也理事長が会館の魅力や今後への期待などについて意見を交わした。

― フランスの首都パリの中心部に位置するパリ日本文化会館は長年、日仏文化交流に多大なる貢献をしてきました。改めて文化発信の意義をお伺いします。

早川 ひと言で文化と言っても人によって捉え方が違うかもしれません。茶道など伝統的なものから最近のポップカルチャーやスポーツ、さらには日常生活の中にも文化はありますね。今のパリ日本文化会館は、文化とひとくくりにするのも難しい、ありとあらゆる日本のことを発信しています。近年、映画の寅さん(「男はつらいよ」)シリーズを会館で全編上映するようなこともありましたが、もともと日本に興味があるフランスの方々にもっともっと関心を持ってもらいたい。関心を持つことで好意が生まれる。そのことでより近くなって友好関係が高まる。こうしたことを先頭に立って行っているのがパリ日本文化会館です。

黒澤 実際に行ってみると分かりますが、パリ市民の皆さんが自然に会館に入ってこられるんですね。日常生活の延長線上で会館を使っている方が多いな、という印象を持っています。地元の多くのタクシーの運転手さんも会館をよく知っていて、本当に日本とフランスが会館という「場」を通じて深くつながっています。こうした価値創造は97年から積み重ねた活動の証しでもあるだろうと思いますし、改めてその歴史の重さ、文化を発信してきた蓄積に敬意を表したいです。

― 最近では岸田文雄首相、上川陽子外相も会館を訪れたそうですね。

黒澤 岸田首相は5月2日に来館され、観光庁と日本政府観光局(JNTO)主催による日仏観光プロモーションイベントでスピーチしていただきました。実際に会館をご覧になって「すごい施設だ」と驚いておられました。上川外相には5月1日にご視察いただきました。上川外相は世界各国に行くたびに時間が許せば図書館や書店を訪れるそうで、パリ日本文化会館でも図書館をご覧になりました。漫画も含めて日本の書物をフランス語訳した蔵書が素晴らしいと感銘を受けておられました。

早川 国会議員の方ですとか企業のトップの方が会館に立ち寄られる機会が最近増えているようですね。政治家を含めたインフルエンサーなど、幅広い方々に来ていただくことがもっと増えるといいと思います。サポートする民間としても来ていただくためにどういう仕掛けを作るか考えなくてはいけないですね。

黒澤 私がこれまで深く関わってきたツーリズム業界にも話をしております。日本からの企業の視察ですとか、学生さんを連れていく教育旅行のような時に、例えばフランス人と交流するイベントの会場として会館はうってつけですよということを言っています。

早川 例えば経団連がミッションでフランスに行くような時に「会館に寄ってください」と誘導するようなことができるといいですね。自信を持って会館が良い方向に向かっていると言えますから、もっともっと利用してもらいたいですね。

― 今の館長はさまざまな改革に取り組まれていると聞きます。

早川 元NHK欧州総局長の鈴木仁さんですね。積極的に何かやりたいという意志をお持ちの方ですし、何かをやった後の発信がまた素晴らしく、さすがジャーナリストだと感じます。例えば、友の会会員向けのリポートは、ビジュアルを多く取り入れていて、とても分かりやすいですね。こういうことがあったというだけでなくイベントごとの反応なども添えられていますし、今はこういうことで会館が日仏の交流や社会課題解決に貢献しているということが伝わる工夫もされています。

黒澤 時代に即した成長を遂げられるよう、館長を中心に、2022年度から5年間の活動方針として5つの柱からなる「パリ日本文化会館中期ビジョン2022-2026」を策定しています。例えば「世界が直面する課題の解決に貢献します」という柱に沿って、昨年10月から今年の2月まで実施した「工匠たちの技と心―日本の伝統木造建築を探る」という展覧会では、SDGsに通じる日本の木造建築の文化と歴史が多くの反響を呼び、3万人以上の記録的な集客となるなど、会館の運営という観点からとても良い流れが生まれています。

世界でも珍しい官民協同の組織

― 設立以来、官民協同で取り組んでいる意義は。

黒澤 一過性の官民協同イベントはよくありますが、官民が会館そのものの事業資金を共同で負担し、連携することによって文化交流などの活動の継続性を担保できていることが大きいと思いますね。これは設立以来のコンセプトで、両国の継続的な友好関係を保つうえで、政府間の外交だけに頼らず、官民一体となって草の根レベルの持続的交流が重要だという気概のようなものを感じます。こうした気概がさまざまな交流活動を経て長年積み重なり、日仏友好という名の無形の価値を創造しているところに大きな意味があります。

早川 官民協同の理念で設立され、過去約30年を見ても元外交官の方や国の政策に精通しているさまざまな方のアドバイスやネットワークをうまく活用しているんですね。館長の諮問機関にもいわゆるオピニオンリーダーの方がそろっています。多分民間だけでやろうとしてもできないメンバー構成ですね。 主要な日本企業、また欧州でこれからもっと活動していくぞという企業のためになるような活動を国のサポートもいただきながらやっていくことが、結果的に日本とフランス、日本と欧州の関係を今まで以上に良くしていくということにつながると思います。

― 日本企業には今まで以上に会館を利用していただきたいところですね。

黒澤 友の会会員数は現在78。その数を今後も増やしていきたいという思いでいっぱいなんですけれども、まずは積極的にこの会館と連携し活用いただきたいなと感じています。さきほど申し上げた日本の木造建築に関わる展覧会は、会員である竹中工務店さんが開設された竹中大工道具館とパリ日本文化会館とが主催した企画でして、連携の好事例となりました。会館としては友の会の会員の皆さんと連携したこうした取り組みを積極的に進めていきたいと思っています。そのために今後も引き続き会員のお知恵を拝借しながら、どういうやり方をすれば会館の活動をもっと活性化できるか考えていきたいです。

早川 パリ近辺の日系企業やそのお取引先の方が会館でイベントを行うことが増えているのですが、会館を訪れた際は日本でもまとめて見る機会が少ないような、日本文化の展覧会や映画上映会を体験することで日本を「再発見」していただきたいですね。

― パリにある各国の施設の中でもパリ日本文化会館は来館者数や注目度がダントツということも聞きます

黒澤 来館者は年々増えて昨年度は17万人を超えましたね。日本文化はその多様性と奥深さゆえに世界中の人々から愛されていて、訪日観光などで日本が注目されている今が集客のチャンスです。このことはフランスの方々が感じた日本文化の受け止め方を通じて、日本の私たちが価値として認識してこなかったものを再発見する機会創出にもつながります。そうした価値観の差を埋めながら、お互いの「共感」を作り出せる対話の場として会館を利用していく、ということもさらに進めていきたいと考えています。

早川 さまざまな追い風を活かして、オールジャパン体制でパリ日本文化会館の活動を応援していきたいと思います。

【 取材協力:パリ日本文化会館・日本友の会 】

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