宇宙も作戦領域 日米が目指す統合ミサイル防衛 佐藤純之助
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宇宙空間を軍事利用する動きが加速している。日米両国は、衛星を「目」にした防空戦闘の強化を急ぐ一方、中露は衛星の活動を妨害する技術の開発も進めている。
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米海軍の原子力空母「セオドア・ルーズベルト」が韓国・釜山に入港していた6月下旬の早朝、北朝鮮は1発の弾道ミサイルを日本海へ向けて発射した。韓国軍はミサイルが空中分解したと分析したが、日本政府関係者は警戒を隠さなかった。弾頭が極超音速兵器だった可能性がある上、北朝鮮が翌日、「弾頭部分が分離して3カ所の目標を正確に捉えた」と発表したためだ。
通常の弾道ミサイルはロケットから分離後に宇宙空間へ上昇し、放物線を描いて地球へ落下するため、発射直後の角度と初速から予測軌道を計算できる。一方、極超音速兵器は切り離された後に向きを変え、宇宙と大気圏の境目付近を滑空、揚力で変則的に動きながら目標へ向かう。レーダーで追尾しにくい上、北朝鮮が主張するとおり多弾頭化していたとすると迎撃はより困難になる。
「北朝鮮のミサイル技術がますます進化しているのは間違いない」と、前出の日本政府関係者は話す。
日米は2005年、弾道ミサイルがいずれ宇宙空間のより高い地点まで上昇し、既存の迎撃ミサイル「SM3」(スタンダード・ミサイル3)では届かなくなることを見越して能力向上型の開発に共同で着手した。実際、北朝鮮は16年に米領グアムを射程に収める中距離弾を通常より高い角度で打ち上げる「ロフテッド軌道」で発射した。ミサイルは高度1000キロを超え、鋭角な放物線を描いて日本海へ落下した。
防衛省関係者は当時、「北朝鮮の開発速度は想定したよりも速い」と語っていた。
日米がSM3の能力向上開発を終え、実践配備を始めたのはそれから6年後の22年。弾道ミサイル技術の進化にようやく追いついたが、そのころから極超音速兵器という新たな脅威が登場し、日米は再びミサイル防衛のアップグレードに乗り出すことになった。
最大の特徴は、人工衛星を使った「目」の強化。赤外線やレーダー、光学センサーなどさまざまな観測機器を搭載した小型衛星を大量に打ち上げ、地球上の動きをつぶさに監視する構想だ。高度2000キロ以下の低軌道上に打ち上げることから収集する情報の解像度が高い上、多数の衛星を一体的に運用する(図1)。衛星1基では地球を1周するタイミングでしか同じ地点を監視できないが、あらゆる場所を高い頻度で監視することが可能になる。
「宇宙からの情報収集が地上の優劣を左右するようになってきた」と、航空自衛隊の関係者は言う。
極超音速兵器への備え
米国防総省は23年4月、最初の10基を打ち上げた。現地報道によると、まずは173基で運用する計画だ。さらに同盟国の日本と衛星網の整備で協力を進めており、両国は今年4月にワシントンで開いた首脳会談でその方針を確認した。日本は24年から打ち上げを開始し、関係者によると50基体制を目指す。
日米が00年代初頭から整備してきたこれまでのミサイル防衛は、高度3万6000キロの軌道上に投入された米国の早期警戒衛星が発射時の熱情報を赤外線で探知し、日本にも情報を伝達。その後は地上のレーダーで追尾をしていた。しかし、レーダーは低い高度で飛ぶ物体を捕捉しにくく、極超音速兵器のような脅威に対応するのは難しい。
宇宙からの監視を強…
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週刊エコノミスト
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