週刊エコノミスト Online 足りる?足りない?老後資金

60代6000人アンケートが裏付ける老後の地方都市移住の有効性 野尻哲史

那覇市は「医療体制が充実」を挙げる人の割合が全国でもトップクラスだった(写真は那覇市役所、筆者撮影)
那覇市は「医療体制が充実」を挙げる人の割合が全国でもトップクラスだった(写真は那覇市役所、筆者撮影)

 生活コストが安い地方都市は、やはり老後生活に向いている。所有マンションの売却で移住先のマンション購入資金を捻出する人が多い。

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「退職後に夫婦でのんびりとした生活を送りたい」

 そんな夢を実現しようとしている60代に「地方都市移住」のインタビューを続けている。筆者は資産活用を中心に「退職後にお金とどう向き合うべきか」の情報を発信しているが、総合的にみると地方都市移住はその対策として大きな選択肢だと考えている。

 退職後の生活は、次の「退職後の生活の等式」を使うと整理しやすい。

「退職後の生活費=勤労収入+年金収入+資産収入」

 これは退職後の生活費は三つのリタイアメント・インカムで賄われるという意味だ。少しでも長く働いて勤労収入を増やす、年金の上手な受け取り方で終身の収入を確保する、資産形成で作り上げた資産を上手に活用して資産収入の持続力を高める、といった対策が並列にあることがわかる。

 その上で、もうひとつ大切なのが生活費の抑制だ。長期で考えると、勤労収入はいつか無くなり、年金収入は増えることはない。そうした中で、資産寿命の延伸に力を発揮できるのは、生活費のコントロールだけになる。これら四つの項目は、退職後の生活を考える際の「対策のポートフォリオ」と呼ぶべきものとなる。

75%が移住に満足

 フィンウェル研究所が毎年行っている人口30万人以上の都道府県庁所在34都市の「60代6000人の声」アンケートでは、生活費の削減について聞いている。2024年の回答者のうち資産を保有している5186人に保有資産の延命策を聞いてみると、「生活費を切り詰める」と答えた人が全体の29.4%、「少しでも長く働いて収入を得る」が31.0%と双璧だった。

 次に生活費削減の方策を聞いたところ「食費を切り詰める」と回答した人は、37.9%と最も多くなった。しかし、せっかく楽しい退職後の生活を目指すのに、食費を減らすのは避けたいところだ。

 もっと包括的な方法のひとつが、生活のダウンサイジングとしての地方都市移住だ。地方移住というと、ログハウスでの生活、農業を営むといったことを想像しがちだが、それほど生活水準を変えないで生活費を下げる方法として、生活費の安い地方“都市”への移住が検討できる。

 ちなみに、22年の「小売物価統計調査(動向編)」で東京以外の33都市の民営家賃を東京23区と比較してみると、その平均値は48.3%と半分以下だった。食費などの物価もさることながら、家賃または住居費が大きく削減できる点はインセンティブになると思う。

 実際に移住した人に聞いてみると、その評価の柱がコストダウンであることがわかる。10年以内に移住した431人に、「移住して良かったかどうか」とその理由を聞いた(図1)。結果は、74.9%が「良かったと思う」と回答し、その理由として43.7%が「生活費の削減が可能になった」ことを挙げている。逆に「想定ほど良くなかった」と回答した人の48.1%が、「思ったほど生活コストが下がらなかった」としている。地方都市移住の成否が生活コスト削減にあることがよくわかる。

 ところで東京、大阪、名古屋の3大都市に居住している2144人に地方都市移住の検討状況も聞いているが、「現在、地方都市移住を検討している」人は11.6%、「過去に地方都市移住を検討したが諦めた」人は6.2%で、合計17.8%だった。60代の6人に1人が地方都市移住を検討している(いた)という実態は、「思った以上に多い」という印象だ。

簿価割れでも大丈夫

 住宅は賃貸か購入か、現役時代によく議論されるテーマだが、退職後に移住した人にインタビューすると、そのほとんどが購入派だ。しかも退職世代は、1990年代のバブル崩壊からデフレの時代を通して家を買ってもうかったことは少ないと思う。それでもうまくいった人たちの理由はどこにあるのだろう。実際に話を伺った実例を紹介する。

 退職後に岡山に移住したTさんは、94年、バブルのピークからかなり下落したと判断して神奈川県藤沢市の片瀬海…

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