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基礎から分かる! 年金制度10キーワード 永原僚子

 専門用語が多く、とっつきにくい年金制度。10のキーワードで基礎から解説する。

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 ①公的年金制度

 日本の公的年金制度は、1階部分が国民年金(基礎年金)、2階部分が厚生年金の2階建ての構造になっている(図1)。20歳以上60歳未満の自営業者、農業従事者、フリーター、それらの配偶者、学生などは1階の国民年金に加入し、会社員や公務員などの勤め人は、1階の国民年金と2階の厚生年金の両方に加入する。

 公的年金には老齢給付、遺族給付、障害給付という三つの給付があるが、これらを受給するためには請求手続きが必要で自動的に振り込まれることはない。このことから「申請主義」「請求主義」とも呼ばれる。また、請求する権利には5年の消滅時効があるため注意が必要だ。さかのぼって受給できるのは5年前までに限られる。

 なお、公的年金は世代間扶養の原則に基づき、働いている現役世代が支払う保険料を仕送りとして年金給付に充てる「賦課方式」を採っている。2004年の年金制度改正では「マクロ経済スライド」が導入された。マクロ経済スライドとは、平均余命の伸びや現役世代の人数の変化などが年金財政に与える影響を考慮し、年金の給付水準を調整し将来の現役世代の負担を抑制する仕組みだ。

 ②第3号被保険者

 国民年金の被保険者は、自営業者などの第1号被保険者、会社員や公務員などの第2号被保険者、第2号被保険者の被扶養配偶者である第3号被保険者の三つの種別に分けられる(図2)。第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者(年収が130万円未満かつ配偶者の年収の2分の1未満)を第3号被保険者という。

 第3号被保険者の国民年金保険料は、第2号被保険者全体で負担しているため、個々に納付する必要はない。しかし、第2号被保険者である配偶者が退職などで厚生年金の加入者でなくなった場合は、自身が第2号被保険者とならない限り第1号被保険者への種別変更が必要だ。その後は国民年金保険料の支払い義務が生じる。

 第3号被保険者の存続については疑問が呈されている。第1号被保険者である自営業者などの配偶者は自身で国民年金保険料を納付しなければならないが、第3号被保険者は国民年金保険料を納付しなくても基礎年金を受給できる。また、共働き世帯の増加や女性の社会進出などの社会環境の変化に対応していないことや働き控えにつながっているとの指摘もある。このため、25年に見込まれる年金制度改革に向け、第3号被保険者に関する議論が行われている。

 ③106万円の壁

 社会保険料の支払いや納税義務が生じる「年収の壁」の一つ。月額賃金8.8万円(つまり年収106万円)以上、週20時間以上、勤務期間2カ月以上の条件で、従業員数101人以上の企業に勤務すると、社会保険へ強制加入することになり、社会保険料の支払いが生じる。24年10月以降は従業員数51人以上の企業に範囲が拡大される。その場合、社会保険料の自己負担目安額は収入の約15%である。

 106万円の壁を超えると、扶養から外れて社会保険料負担が発生するため、パートタイムで働く人などが労働時間や年収を調整しながら働く「働き控え」につながっていると指摘されている。106万円の壁を超えないように気にする人も多いが、社会保険に加入することで国民年金に加えて厚生年金も受給できるようになり、将来受け取る公的年金額が増える。また万一、病気やけがで働けなくなった場合に健康保険から傷病手当金が受け取れることにもなる。

 人生100年時代、目の前の手取り額だけでなく、もっと大きな視点で考えてもよいかもしれない。

 ④年収の壁・支援強化パッケージ

 23年10月より開始された、いわゆる年収の壁対策。年収の壁とは、扶養の範囲に収まる年収基準のことだ。従業員101人以上(24年10…

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