マーケット・金融 毎日新聞「経済プレミア」より

米インフレを巡る「最後の1マイル」がドル高を続かせる 鈴木浩史

6月の米FOMC後に記者会見するFRBのパウエル議長(Bloomberg)
6月の米FOMC後に記者会見するFRBのパウエル議長(Bloomberg)

 米国で長く続くインフレは鈍化しているが、なかなか最終的に沈静化しないことが、為替市場のドル高を支えている。

 本記事は毎日新聞のウェブサイト「経済プレミア」で連載中の「鈴木浩史の『為替でみる経済』」のうちの1本です。三井住友銀行のチーフ・為替ストラテジストの鈴木浩史さんが、世界や日本の経済の今を中央銀行の金融政策や為替の動向から読み解いています。

 米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は7月2日、インフレ(物価上昇)が鈍化しているとの認識を示しつつ、利下げを決める前に「2%に向かって持続的に低下するとのより強い確信が欲しい」と発言した。つまりインフレがFRBの目標とする2%になれば利下げの可能性が高まる。しかし今はその目前の3%前後のインフレ率で推移している。利下げまでの最後の1%、いわば「最後の1マイル」がまだ目の前に残っている限り、利下げは許容されず、為替市場ではドル高傾向が続くことになる。

困難が伴う「最後の1マイル」

 この1年あまり米国インフレを巡って、3%から2%で安定的に推移する状態までの最後の1マイルが各所で論じられている。最後の1マイルは困難を伴うものであり、すなわちインフレが順調に右肩下がりにはならないのではないか、とも考えられている。

 右肩下がりでインフレ率が下がっていくならば、FRBは利下げを進めていくことができる。逆に、インフレ率の下がり方が思ったように進展しなければ、その分利下げは遠のく。

 2023年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、24年中に3回の利下げが見込まれていたわけだが、なかなか下がらないインフレ率に直面して、利下げ見通しの修正を余儀なくされたのは記憶に新しい。こうした状況はいうまでもなく、ドル・円の見通しにも大きな影響を及ぼす。

 この最後の1マイルをどのように進むかという問題に加えて、最後の1マイルは道半ばでもよいのではないかといった意見はあろう。つまり、2%台後半のインフレであっても、インフレ率は下がってきているのだし、今後も緩やかにでもおそらくは下がるだろう。もしそうであれば利下げは可能だ、というものだ。今回はそれぞれについて指摘されていることを見ていこう。

 最後の1マイルはうまくいくのか、という問題意識は根強い。これについては国際通貨基金(IMF)でチーフエコノミストを務めたことのあるオリビエ・ブランシャール氏とFRB議長だったベン・バーナンキ氏の分析を筆頭に、多くの分析が発表されている。

 ブランシャール氏とバーナンキ氏は、足元では労働市場の逼迫(ひっぱく)から賃金上昇圧力が続いており、米国のインフレにとって押し上げ圧力となっているとの分析結果を示している。この見方に沿えばインフレの鈍化には雇用などが悪化していくことが必要となる。最後の1マイルを解消していく道筋は困難さを伴うことが想像さ…

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週刊エコノミスト

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