生成AIの登場と普及は、産業や生活を向上させる画期的なテクノロジーとして注目されている。一方で、AIの学習や演算に消費される電力量は過大で、環境負荷を軽減した持続可能なテクノロジーの発展も求められている。こうした課題に対して、米国半導体メモリ大手のマイクロンは広島と橋本(神奈川県)をAI半導体の拠点とし、日本のAIの“サステナブルな(持続可能)”成長を推進している。来日したマイクロンテクノロジー上級副社長グローバル事業担当マニッシュ・バーティア氏に、その取り組みと日本のAIの未来について聞いた。
AIによる日本の半導体産業全体の持続的な成長とそれを支える多様な人材を育成
2001年から100回近く来日しているという親日家のバーティア氏は、持続的なAIの成長に対する戦略について「マイクロンは、AI成長の大きな課題である消費電力の問題に対応すると同時に、日本の半導体産業全体の持続的成長を促すという二軸の“サステナブルな”取り組みを通じて、日本のAIの成長に貢献していく」と切り出す。
現在、AI演算用半導体として有名なNVIDIAのGPUには、1つのGPUに対してマイクロンの先進DRAMメモリ「広帯域メモリ(HBM)」が64個搭載されている(8個のメモリを積層したパッケージを8個搭載)。AIの省電力問題では、GPUに注目が集まっているが、先進メモリの消費電力の効率化もAIの成長に伴う環境負荷軽減の観点から大きな意味を持つ。バーティア氏は「AIの生命線といえる先進メモリの分野で、マイクロンは最先端の1β(1ベータ)DRAMプロセスを採用したHBM3Eを投入し、競合製品よりも約30%低い消費電力を実現している」と話す。
また「日本に拠点を設けた背景には、日本の素材メーカーや装置メーカーなど優れたパートナーとの強固なサプライチェーンの構築がある。日本のパートナーとの緊密な協力によりHBM3Eをはじめとする先進メモリの製造だけでなく、EUVを用いた次世代DRAMの製造を通じて、パートナーとともに今後も日本での半導体製造のイノベーションを推進していく」と付け加える。
さらに、日本での半導体のイノベーションとAIの成長を支えるために、多様な人材の育成が不可欠であると強調する。マイクロンは昨年、UPWARDS for the Future(半導体の未来に向けた人材育成と研究開発のための日米大学パートナーシップ)を創設した。バーティア氏は「人材育成を通じて日本の半導体エコシステム形成に貢献したい」と意欲を示す。
過去5年間で、マイクロンメモリジャパンの技術職における女性社員の比率は77%増加し、新卒採用では女性の比率が約35%に上る。また日本で働く社員の国籍数は34に達するなど、多様な人材の育成で顕著な成果を上げる。
バーティア氏は「AIが人類に利益をもたらす有望な機会を実現するために、 マイクロンは今後も多様な人材を育成し、環境問題とイノベーションを両立させながら、日本のAIのサステナブルな成長に貢献していく」と展望を語る。
取材協力:マイクロンテクノロジー