NTTドコモも銀行業参入へ 4年前の「ドコモ口座不正利用事件」を乗り越え 石川温
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通信業界の金融分野開拓が急務となる中、NTTドコモは欠けていた本丸のピース「銀行」を取りに行く。果たしてどんな方法で手中に収めるのか。
キャリア4社の「金融経済圏勝負」が本格化
今年6月にNTTドコモの新社長に就任した前田義晃氏が7月上旬、複数のメディアによるインタビューに応じ、銀行業への参入を明言したと報じられた。前田新社長はリクルート出身で、NTTドコモでは携帯電話向けのインターネット接続サービス「iモード」時代から、コンテンツの開拓を推進するなど非通信分野にたけた人物だ。
通信業界は2020年ごろに広がった菅義偉政権による官製値下げ以降、通信料収入が落ち込む中、新たな収益源確保として、金融分野の開拓が急務になっている。NTTドコモでは23年にマネックス証券、今年3月にはオリックス・クレジットと資本業務提携で合意して同社を子会社化するなど、着々と金融関連企業を傘下に収めている。
しかし、金融事業の本丸というべき「銀行」というピースが欠けた状態にあり、前田社長としては「できるだけ早期に」銀行業への参入を公言したというわけだ。通信業界はもはやスマートフォンがほとんどの国民に行き渡る中、契約者数や通信料収入の増加が見込めない状況にある。さらに、楽天モバイルが20年に「第4のキャリア」として新規に通信業界に参入し、競争は一段と激しくなっている。
楽天モバイルは最近では700万契約を突破するなど、ドコモを含む既存3社を脅かす存在になりつつある。楽天モバイルは月額3000円程度でデータ通信が使い放題になるプランで料金競争を起こす一方、「楽天経済圏」とも呼ばれるネット通販を中心としたポイントサービスによって、多くのユーザーを抱えているのが最大の強みだ。
そして楽天モバイルの参入により、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクも通信事業だけでは勝負にならず「経済圏の拡大」が新たな競争軸となっている。楽天グループにはネット通販や楽天モバイル以外にも、楽天証券や楽天銀行、楽天カードなどさまざまなサービスがそろい、それぞれを契約して利用することでポイントが大量に付与される仕組みが存在する。
住宅ローンで囲い込み
実は、KDDIグループも携帯電話そのものの事業が全盛のころから三菱UFJ銀行と手を組み、「auじぶん銀行」を設立して08年7月からサービスを開始している。さらに、カブドットコム証券(現auカブコム証券)を買収するなど次々と金融関連企業を傘下に収め、カードや保険、証券などを傘下とするauフィナンシャルホールディングス(HD)を形成するまでに至った。
また、ソフトバンクも、国内で6000万ユーザーを抱えるスマホ決済「PayPay(ペイペイ)」を中心に、今ではPayPayカードやPayPay銀行、さらにPayPay証券など、着実に金融サービスをそろえつつある。KDDIやソフトバンクが金融サービスを強化するのは、「顧客の囲い込み」にダイレクトに効くからだ。KDDIの高橋誠社長は「金融サービスの強化により、解約率の低下につながっている」と金融強化のメリットを語る。
ユーザーからすれば、毎月の携帯電話料金を支払うには、何らかのクレジットカードによる決済が必要となる。その際、ポイントがたくさんもらえるクレカのほうがうれしいわけで、結果として携帯電話会社が発行するクレカを選ぶようになる。そして、クレカでお金を引き落とすには銀行口座が必要となり、さらにポイントがたまりやすい携帯電話会社の銀行に口座を開くというわけだ。
携帯電話料金を毎月支払っていると、それなりにポイントがたまっていく。ポイントはさまざまなコンビニやスーパーでの決済に使えてお得感もあるため、自然と経済圏に囲われていく。キャリア側としても、安価な料金プランを投入するより、多少のコストを負担してでもポイントを付与したほうが、結果として顧客満足度は上がり、通信サービスを長く契約し続けてくれる。
auじぶん銀行では住宅ローンの融資実行額が15年12月のサービス開始後、累計4.5兆円を突破するまでになった。KDDIが提供する通信サービスに電気やテレビサービスなどを組み合わせることで、金利を優遇する施策が人気のようだ。もちろん、住宅ローンを組んでもらえば、ユーザーは完済までの期間中、数十年にわたってauを使い続けることになるだけに、ユーザーの囲い込み策としては申し分ないといえるだろう。
新NISA口座も確保
さらにここ最近、KDDIやソフトバンクが金融事業を強化している背景にあるのが、24年から始まった新NISA(少額投資非課税制度)だ。政府が「資産所得倍増プラン」の実現に向けて新NISAを導入するのを見据え、KDDIでは「auマネ活プラン」を昨年9月から開始している。auじぶん銀行やauカブコム証券に口座を…
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週刊エコノミスト
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