経済・企業 エコノミストリポート

社会的価値の創出で存在意義を果たすのが本来の企業 百嶋徹

「真のCSR経営」を実践する米IT企業は、利益も巨額だ。日本企業も短期志向を脱却し、中長期の「社会的ミッション」実現にまい進すべきだ。

問われる「真のCSR経営」 はびこる「株主至上主義」

 企業の社会的責任や存在意義は、あらゆる事業活動を通じて社会課題を解決し社会を良くするという「社会的ミッション」を実現すること、すなわち「社会的価値」を創出することにこそある。結果として、それと引き換えに経済的リターンを獲得できると考えるべきであり、経済的リターンありきではなく社会的ミッションを起点とする発想が求められると、筆者は2008年ごろからいち早く唱えてきた。

 社会的価値創出を経済的リターンに対する上位概念と捉える「社会的ミッション起点の真のCSR(企業の社会的責任)経営」は、従業員、顧客、取引先、株主、債権者、地域社会、行政など多様なステークホルダーとの高い志の共有、いわば「共鳴の連鎖」があってこそ実践できる。経営者は、社会を豊かにする社会変革をけん引すべく、強い使命感・気概・情熱を持って、高い志を多様なステークホルダーと共有し、社会的ミッションを成し遂げなければならない。

「CSR=慈善事業」の誤解

「社会的ミッション起点のCSR経営」は平たく言えば、「企業経営は社会の役に立ってなんぼ」ということだ。また、CSRの実践においては、適切な「ガバナンス(G)」の下で、企業活動の一挙手一投足を「環境(E)や社会(S)への配慮」という「フィルター」にかけることが欠かせないため、「CSR経営」は「ESG経営」と言い換えることもできる。

 一方で、産業界・資本市場の関係者などの間で、CSR・ESGへの多くの誤解が蔓延(まんえん)している。

 根強い誤解の一つは、「CSRはボランティア、寄付、植林、芸術文化支援など慈善の社会貢献活動を指している」というものだ。CSRは、特定の狭い企業活動に限定するのではなく、企業経営の基盤を成すもっと広い普遍的な概念として、「企業が良き企業市民として社会で存在するために責任を持ってなすべきこと」と捉えるべきだ。すなわち、「CSRと企業の社会的存在意義はほぼ同義」と捉えられる。筆者は、この一つ目の誤解と一線を画するために、「CS」R経営」の前に「真の」という形容詞をわざわざ付けている。

 二つ目は、「企業の目的は経済的リターンの獲得である」との誤解だ。企業がこの誤解を抱えたまま、「経済的リターンと社会的価値の両立」を標榜(ひょうぼう)しても、「もうからなければ社会課題に取り組まない」とする本末転倒な考え方に陥りかねない。本来は、沸き立つ高い志が強い使命感・気概・情熱を生み、それが社会的ミッションを実現する原動力となるべきだ。

 企業の目的は、志の高い社会的ミッションを掲げ、それを実現すべく、愚直・誠実に社会的価値創出にまい進し続けて社会を豊かにすることだ。社会的ミッションを実現した結果の「ご褒美」として、初めて経済的リターンが獲得できるのであって、利益獲得が決して目的ではないのだ。利益ありきの「経済的リターンファースト」の考え方が行き過ぎると、企業経営に不具合が起き最悪のケースでは企業不祥事にまでつながる。

 日本の大企業の多くは、外国人投資家の台頭や四半期業績の開示義務付けなど、資本市場における急激な「グローバル化の波」に翻弄(ほんろう)され、2005年前後を境に株主利益の最大化が最も重要であるとする「株主至上主義」へ拙速に傾いたとみている。多くの大企業は、短期志向の株主至上主義の下で、労働や設備への分配を削減して将来成長を犠牲にする代わりに、短期収益を上げ株主配当の資金を捻出する「バランスを欠いた付加価値分配」にかじを切った。

 19年に筆者が大企業製造業を対象に行った考察によれば、収益サイクルの山である00年度と07年度を比べると、分配の源泉となる付加価値の増分を営業利益の増分が上回る一方、従業員人件費が削減され、この間の増益は付加価値増分のすべてが営業利益に回された上に、従業員のみにしわ寄せする形で捻出された。設備への分配を代理的に表す減価償却費は、若干の増加にとどまった。一方、株主配当が急増し営業増益分のほぼ8割が充てられた(表)。営業利益に偏重した付加価値分配は、株主配当の資金捻出に主眼があった。

低下したままの労働分配率

 付加価値に占める各要素の比率(分配率)では、従業員人件費の比率(労働分配率)は00年度の54%から07年度に47%へ低下する一方、営業利益の比率は21%から28%へ上昇した。労働分配率は1980年代以降、50~60%のレンジで推移してきたが、05年度から07年度まで50%を割り込み、歴史的低水準が続いた(図)。

 株主配当の比率は4%から10%へ上昇した。配当金比率は90年代までは3%前後の水準で安定し…

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週刊エコノミスト

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