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国際・政治 エコノミストリポート

トランプ・バイデン両政権の米中半導体戦争 巨大市場を背景に「中国勝利」の流れ 豊崎禎久

ファーウェイのショップ。中国市場でスマートフォンが首位に(上海で2023年9月、Bloomberg)
ファーウェイのショップ。中国市場でスマートフォンが首位に(上海で2023年9月、Bloomberg)

 2年前に米国が行った包括的な規制は掛け声倒れに終わり、封じ込め戦略は失敗と結論づけられるだろう。両国の覇権争いの将来にも影響しそうだ。

血税による日本の半導体復活は掛け声倒れの恐れ

 米国にたたかれて凋落(ちょうらく)した日本と、米国の攻撃を押し返した中国──。後世の歴史家は、米国が日本と中国に仕掛けた半導体産業に対する攻略戦への対応の違いを、このように記すかもしれない。トランプ前大統領が2018年に本格導入した対中半導体封じ込め策は、トランプ氏の政敵であるバイデン大統領が引き継いだ。約6年が経過した現在、実質的に失敗に終わったことがほぼ確実な情勢だ。

 米国が「中国排除」を狙った先端半導体製造に関する技術・ノウハウの多くを中国はすでに入手しており、中国の半導体メーカーは、今後、設計と製造の両面において世界でトップクラスを狙う位置に付けている。中国の戦略的な動きとは対照的に、日本政府は、米政府にたきつけられて成功の見込みの乏しい国策半導体製造企業に税金を湯水のように投入する構えだ。中国と日本、彼我の差を正しく認識しない限り、「日本の半導体復活」は掛け声倒れに終わるだろう。

米空母も中国製に依存

 トランプ政権が仕掛けてきた半導体を中核とする対中ハイテク規制は、22年10月にバイデン政権が、包括的な半導体規制を打ち出したことで最高潮を迎える(表)。一言でいえば中国に先端半導体は一切増産させないという米国の意志を示すものだ。日本の半導体専門家から「中国半導体産業が壊滅しかねない」といった指摘が出ていた。

 とはいえ、規制を強化すればするほど中国側が反発して、独自の技術強化にまい進するのは必然だった。包括的な規制から間もなく2年を迎える中で、「中国のハイテク産業はもう終わり」との見通しを示した有識者には“不都合な事実”が次々と明らかになっている。主な事例は以下の通りだ。

・23年8月、華為技術(ファーウェイ)が発売したスマートフォン「Mate60Pro」に回路線幅7ナノメートルの先端半導体製品(アプリケーションプロセッサー=AP)搭載が判明。APを製造したのは中国半導体製造大手、中芯国際集成電路製造(SMIC)。

・息を吹き返したファーウェイ、スマートフォンの中国販売シェア首位に返り咲き(24年1~3月)。出荷台数1170万台でシェア17%、米アップルは1000万台で同15%。

・半導体受託製造(ファウンドリー)で世界上位10社中、中国3社がランクイン(図)。SMICはシェア6.0%で3位(24年1~3月期)。

・米国の対中規制にもかかわらず、米欧日の半導体製造装置メーカーは直近の決算で、地域別売上高のうち中国が3~4割前後を占めており、高い依存度を示す。

・米データ分析会社ゴビーニ社によると、米国防総省の兵器システムと関連インフラを支える半導体の40%以上が中国から供給されている。最新鋭の原子力空母「フォード」は、運用に6500個以上の中国製半導体に依存している。米誌『フォーブス』24年1月9日付電子版が報じた。

 米国政府は、安全保障上の理由から中国の半導体産業の発展阻止をもくろむ一方で、安全保障の中枢そのものである米原子力空母が中国製半導体に依存していることは驚きを禁じ得ない。トランプ、バイデン両政権が講じてきた対中規制がいかにずさんであるかを端的に示す事例といえよう。

日韓から中国へ技術流出

 ファーウェイ製のスマホ復活の背景には、日本人エンジニアの存在も否定できない。世界最大のスマホ市場である中国で、ファーウェイがアップルに販売実績で勝っているのは、カメラの性能で差別化を図っているからだ。日本メーカー出身のエンジニアがファーウェイに転職し、最高レベルのISP(イメージ・シグナル・プロセッサー)の技術をもたらしたことで可能になった。

 ISPは、センサーで捉えた映像を画像エンジンに送る際に受け渡しの機能を果たす半導体製品。ここでいかに正しく情報処理した信号を渡すかで、カメラの性能が左右される。ファーウェイは、センサー、画像エンジン、ISPすべてを自社で設計する。こうした重要技術を内製化しているのは、ファーウェイの半導体設計子会社、海思半導体(ハイシリコン)が世界で唯一である。ファーウェイのスマホで使われている半導体の5割近くは中国製であり、米国や日本製の半導体に依存せずにすむ態勢をほぼ作り上げた。AI(人工知能)用のGPU(画像処理半導体)で世界をリードする米エヌビディアのジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)は、「もっとも手強い中国半導体メーカーはハイシリコンだ」と述べている。

 ISP技術は、日本から中国に技術流出した事案に違いない。近年では韓国から中国への半導体技術が流出する事件が増えている。韓国紙『中央日報』は「産業スパイがまた77人捕まった…

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