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資源・エネルギー エコノミストリポート

水素・アンモニアの代替燃料化 世界レベルで激しい開発競争 宗敦司

水素・アンモニア価格をどう低減させるのか(川崎重工業が神戸港に建設した水素陸揚げ設備)(Bloomberg)
水素・アンモニア価格をどう低減させるのか(川崎重工業が神戸港に建設した水素陸揚げ設備)(Bloomberg)

 水素とアンモニアの活用を促すため、8月から価格差支援制度が動き出したが課題は山積している。

課題はCO₂を出さない大量生産技術

 5月17日に「水素社会推進法」(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律)が成立。脱炭素対策の切り札として、水素やアンモニアを発電燃料に使う試みが本格的に動き出した。ただし、課題も数多く、水素社会推進法が課題克服につながるか、未知数の部分も多い。

 水素やアンモニアをなぜ発電用燃料に使うのか。それは主な二酸化炭素(CO₂)排出源は、天然ガスや石炭など化石燃料を使う火力発電所であり、水素やアンモニアはCO₂を排出せずに燃焼するからだ。ただし、化石燃料価格に比べ水素・アンモニアの価格はかなり高く、これが大きな課題となっており、水素社会推進法は、政府がこの価格差に支援を行うことが大きな目玉となっている。

 実際に価格差を支援する事業は、政府の入札によって選定されることになっており、8月に入札公募がスタートしている。落札要件は、①水素・アンモニア供給事業者と利用事業者が連名する共同計画の作成、②一定期間内に供給を開始し、一定期間以上継続的に行われること、③利用事業者は水素・アンモニア利用のための設備投資や事業革新などを行うこと……など。経済産業省は、8月の初入札でプロジェクトが実際に動き出すことで、水素・アンモニアの価格低減と利用拡大の呼び水になることを期待している。同省は今年度予算で新たに「水素等供給基盤整備事業(FS事業)」を設けており、すでに10の案件を選定。追加公募も行われている(表1)。10案件のうち、茨城県常陸那珂地区の事業は水素とアンモニア双方の供給網。北海道苫小牧地区、山口県周南地区、大阪府堺・泉北地区、福島県相馬地区の4地域はアンモニアの供給網で、残り5地域は水素となっている。

不足する生産能力

 ただし、価格差支援があっても、すぐに課題が解決するわけではない。関係業界の一部からは、「期待していた支援制度よりも規模が小さい」といった声も出ており。支援効果を疑問視する向きもある。

 また、課題は価格差だけでなく、膨大な発電燃料需要量をどう賄うのかという問題もある。水素・アンモニアは、これまで鉄鋼や化学産業などの工業用途でよく使われてきたが、発電燃料用途となると、その需要量はこれまでとはケタ違いに拡大する。例えば、アンモニアは国内で年間約100万トン使用されているが、発電用に使うとなると、2030年に年間約300万トン(発電用のみ、一部発電所で使用開始)が必要とされ、50年には3000万トンが必要と試算されている。アンモニアは発電用だけでなく、石油化学産業の基幹設備であるナフサクラッカー(エチレンプラント)の熱源用途など、さまざまな産業で必須の材料として使われる可能性があるほか、船舶の脱炭素対策として、重油代替燃料としての用途も見込まれており、これらの用途を考えれば、必要量は膨大な規模となる。

 現在、アンモニア製造プラントの生産能力は、1カ所当たり最大日産1500トン程度だ。燃料アンモニアの用途が拡大すれば、最低でも日産3000トン規模が必要とされている。この規模は現在のプラント技術で作れる最大量だが、今までどの会社もこの規模のアンモニアプラントを建設した実績がない。

 さらに、現在、アンモニア製造の主流技術「ハーバー・ボッシュ法」は、製造の際に400~600度、100~200気圧という高温・高圧の工程が必要であり、この条件を満たすために大量のCO₂が発生してしまう。そのため、アンモニア大量生産技術の改良も必要となる。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援で、千代田化工建設、東京電力ホールディングス、JERAの3社が共同で、低温・低圧のアンモニア合成技術の開発(三つの合成触媒開発)に取り組んでおり、24年度末までに開発にめどをつけ、27年度までにパイロット設備で実証試験を済ませ、30年に商用化を目指す予定だ。

 しかし、この開発プロジェクトでも、引き下げられる温度は数十度程度。運転コストは従来比で15%程度削減できるので、従来のハーバー・ボッシュ法に対して高い競争力を持つことになるが、技術的なハードルはかなり高いと見られている。

 このほか、ハーバー・ボッシュ法とは全く異なる、常温常圧プロセスでのアンモニア合成技術の開発に取り組む動きもある。その一つとして、国立研究開発法人科学技術振興機構(CREST)の西林仁昭東京大学教授は、アンモニアを窒素ガスと水から常温・常圧で簡単かつ大量、しかも高速に合成する画期的な方法を開発した。これは『ネイチャー』誌にも掲載されたが、まだ研究段階の話であり、商用化には大きなハードルがいくつもあるとされている。実現まで多くの…

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