パウエルFRB議長発言を読む 「強い労働市場」の維持優先で9月利下げへ転換 森山昌俊
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FRBの今後の利下げは年内3回連続で実施することになるだろう。雇用情勢次第では大幅な利下げも辞さない覚悟だ。
失業急増を招かず2022年3月以降の利上げは成功
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は8月23日のジャクソンホールでの講演「回顧と展望」で「政策調整の時期が来た」と話し、次回9月17、18日の連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げを事実上予告した。
直接の理由は、7月の個人消費支出(PCE)価格指数(FRBスタッフによる推計)が、前年同月比で6月並みのプラス2.5%近辺にとどまったことだ。4~6月期に再開したインフレ鈍化の継続を確認したことで、利下げの条件に挙げていた「インフレが持続的に2%に戻ることへの確信」が「深まった」のだと思われる。
ただ、その背景にあるのは「もはや近いうちに高水準のインフレ圧力の源となる可能性は低いと思われる」ほど、労働市場が冷却化したことだ。7月の雇用統計で失業率が4.3%に上昇したことについては「歴史的基準からはなお低水準」としつつも、「以前の過熱状態から顕著に冷却化したのは間違いない」と述べていた。
パウエル議長は「抑制的な金融政策が総需要と総供給のリバランス(均衡化)を助け、インフレ圧力を緩和し、インフレ期待を十分低位で安定させた」と、講演で総括した。
当初は「一過性」の認識
FRBは2022年3月に利上げを開始して以降、23年7月まで計5.25ポイントの利上げを行った。この政策をどう評価すべきなのか。それを考えることで、今後の利下げの成否も見えてくる。
パウエル議長は講演の後半で、過去2年のインフレとの闘いを回顧している。それによると、FRBは21年前半まで、インフレ加速の主因は自動車など特定分野でのコロナ関連の需給のゆがみによるもので、インフレ期待が安定していれば、金融政策で対応する必要なく解消される「一過性」のものと見なしていた。
しかし、労働参加率など供給の回復が見られないなか、21年11月に発表された7~9月期の雇用コスト指数、10月の雇用統計、消費者物価指数(CPI)、PCE価格が相次いで上振れ、賃金の伸びの加速を通じてインフレがサービスにまで広がりを見せた。
パウエル議長は同年11月30日に議会上院の銀行委員会で、①供給制約によるインフレ押し上げは続き、②労働需要の急速な改善により賃金が強いペースで上昇しており、③最大雇用には長期的な景気拡大が必要で、それには物価安定が不可欠である──と話し、物価安定優先への方針転換(ピボット)を余儀なくされたのだった。
方向転換後の21年12月のFOMC声明は、利上げの条件について、「インフレがしばらく2%を超えていること」をようやく認め、単に「労働市場の状況が最大雇用と整合的になること」とした。これを受け、22年3月の0.25ポイントの利上げから「利上げ局面」が始まった。労働参加率の回復が遅れていても、需要の強さから最大雇用に達したと判断を改めたのだった。
強い労働需要抑制に本腰
利上げ幅は翌22年5月会合で0.50ポイントとなり、6月からは4会合連続で0.75ポイントとなった。これは、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー・食品価格上昇や、中国のコロナ対応のロックダウン強化による供給制約がインフレを押し上げた面もあった。しかしそれ以上に、声明における雇用の伸びに対する判断が「堅調」「力強い」「力強さを増している」と、表現が上方シフトしていったのに連動していた。FRBはインフレとの闘いで、強い労働需要の抑制にようやく本腰を入れることになったのである。
こうした方向転換と大幅利上げを象徴したのが、22年8月のジャクソンホール講演だった。議長は1970年代の高インフレの教訓として、①物価安定は無条件に追求すべきFRBの責任で、需要を供給に合わせることで達成する、②それには政策スタンスを十分抑制的水準に引き上げ、それをしばらく続ける必要がある、③家計・企業に幾分の痛みとなっても、対応の遅れはより甚大な痛みをもたらす──という単刀直入なメッセージを送った。
その後、22年12月のFOMCでは利上げ幅を0.50ポイントに縮小したが、会見でパウエル議長は、累計利上げ幅が4.25ポイントとなったことなどを念頭に政策スタンスがかなり抑制的になったと述べていた。
ただ、それでも議長が警戒を解かなかったのが、労働市場と賃金だった。議長は、労働需給の不均衡で賃金の伸びは物価安定と整合的な水準をはるかに上回っており、これがコアPCE価格の6割弱を占める住居費以外のサービス価格を押し上げているとしていた。したがって、その後の利上げのペース鈍化や停止の過程で重要な要素となったのは、労働市場の均衡化と賃金の伸び鈍化だった。
例えば23年に入ると、議長は労働…
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週刊エコノミスト
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