欧州議会選と仏総選挙で伸長した極右が目指す“反英米・親露”の欧州統合 渡邊啓貴
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欧州議会選挙でも仏総選挙でも、極右の勢力は着実に拡大した。彼らが目指すのは、ユーラシアを視野に入れた「もう一つの欧州統合」だ。
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パリ・オリンピック・パラリンピック前の欧州は、欧州議会選挙と英仏総選挙で揺れた。結果的には、英国では欧州連合(EU)離脱派ポピュリストに振り回された保守派が歴史的制裁を受けた。欧州議会選挙と仏総選挙はメディアの意図的な争点設定で欧州統合派の勝利が強調されたが、実態は極右ポピュリズムの勢力拡大だった。そして極右勢力は、「もう一つの欧州統合」を考えている。
6月6~9日に行われた欧州議会選挙では、開票直後こそ中道保守の欧州統合推進派が勢力を挽回し、統合派は胸をなでおろした。しかし議会グループが再編成され、統合推進派はやや後退し、反EU派は勢力を拡大した。
今回、統合推進派の2大政党(中道右派「欧州人民党(EPP)」と中道左派「社会・民主主義進歩連盟(S&D)」)が、中道リベラル派「欧州刷新(RE)」や「環境派」と合わせて、720議席中454議席を獲得し、過半数を制した(7月11日時点)。統合推進派の中心勢力EPPは2014年以来2回続けて後退していたが、今回は9議席増やして回復の兆しを見せた。しかし、これら4党は、改選前は485議席だった(図)。
他方、右翼の欧州統合反対派は、「欧州保守改革(ECR)」の78議席と、「欧州のための愛国者(PfE)」が84議席を獲得した。PfEはフランスの極右マリーヌ・ルペン氏率いる仏「国民連合(RN)」などが主導し7月、その前身の「アイデンティティーと民主主義(ID)」を発展的に改変した。それぞれ9議席と35議席増やした形だ。
そこに極右「ドイツのための選択肢(AfD)」の14人を中心に新たに結成された会派「主権国家のヨーロッパ(ESN)」の25議席を加えると、反EU派はECRとIDの改選前の118議席から187議席となった。開票直後には極右諸派47議席を勘定に入れず、筆者を含め統合派が勢いを回復して極右が頭打ちだったかのように理解した向きもあったが、それは正しくなかった。再編の結果、今回も統合派が後退し、極右勢力が議席を増やしたのが現実だった。
メディアは予測値誇張
今回、極右は多くのEU加盟国で伸長したが、とりわけフランスで顕著だった。与えられた国別分配議席の81議席のうち、極右勢力が35議席を獲得し、最大勢力となった。自勢力を大後退させたマクロン仏大統領は、勢力拡大のために抜き打ち解散総選挙という「賭け」に出た。統合の是非が問われた選挙の第二幕だ。
しかし結果的に、大統領の第一の狙いである与党中道派「アンサンブル」は過半数どころか大敗(全577議席中、168議席)し、求心力を失った。一方でRNは改選前の88議席から143議席と大幅に議席を拡大。他方、極左「不服従のフランス(LFI)」・環境派・共産党の連合による「新しい人民戦線(NFP)」が第1党(182議席)となった。マクロン氏はRNの過半数阻止には成功したが、代償として、左翼勢力の躍進を許…
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週刊エコノミスト
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