BRICSで「脱ドル」連携もくろむ中露 グローバルサウスの結束は難しく 石附賢実
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今年10月に首脳会議を予定するBRICS。今年1月には新たに5カ国が加わって10カ国となり、タイやマレーシアも加盟を希望しているとされるが、内実は複雑だ。
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ロシアのカザンで今年10月、中国やロシア、インドなど有力新興国で作る「BRICS」の首脳会議が開かれる。議長国ロシアがその主導権を取りつつ、グローバルサウス(中露以外の途上国)を中露側に取り込もうとする場となりそうだ。多くのグローバルサウスの国々が招待されることが想定され、それぞれの国の思惑も首脳会議の動向を理解する上で重要な要素となってくる。
2022年2月のウクライナ侵略を機に経済制裁を科せられたロシアは、「脱ドル化」をはじめとして非・西側の枠組みへの賛同の広がりを誇示したい動機に満ちあふれている。他方で、同会議の参加国の多くは非・西側はともかくとしても、反・西側とはみなされたくはないであろう。ここでは、BRICSという枠組みの多様性と内在する矛盾、内外の力学を探っていきたい。
BRICSは23年までは中・露・印とブラジル、南アフリカの5カ国で構成され、各国の政治体制や価値観は大きく異なっていた。例えば、ブラジル、南アフリカ、インドは民主主義国家の一方、ロシアと中国は権威主義的な体制を維持している。今年1月にはエジプト、エチオピア、イラン、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビアの5カ国が新規加盟したが、いずれも政治的権利や市民的自由の水準は低い国々である(サウジアラビアは今年1月時点で「招待はされているが未加盟」との立場を表明)。
経済力でも大きな開きがあり、中国とエチオピアではGDP(国内総生産)で100倍以上の差がある。また、1人当たりGDPはエチオピアが1500ドル余りにすぎないが、UAEは5万ドル超とかなりの幅があり、人口でもインドや中国はUAEの100倍を超えている(表、拡大はこちら)。このような多様性は、BRICSが西側のG7(主要7カ国)のように近しい目線で結束することが極めて難しい枠組みであることを示唆している。
巧みなグローバルサウス
ここで、BRICSの枠組みにおける中露の思惑を考えてみよう。中露は西側への対抗軸としてグローバルサウスとの経済的・政治的な連携を広げようとしている。現在、タイやマレーシアがBRICSへの加盟を希望しているとされ、「加盟希望国は30カ国以上」とロシアが主張しているとの報道もある。今年10月のBRICS首脳会議にはこれらの非加盟国も招待し、中露は「孤立していない」ことを誇示すると思われる。
他方で、グローバルサウスは中露と西側の間をうまく立ち回っている。例えば、インドは西側主体の日・米・豪・印の枠組み「QUAD」(4カ国戦略対話)の一員ながらBRICSの主要メンバーでもあり、昨年のG20(主要20カ国・地域)会合では議長国としてグローバルサウスの代弁者のように振る舞った。また、タイやインドネシアは西側の枠組みであるOECD(経済協力開発機構)への加盟も申請している。
グローバルサウスがBRICSに対してどのような期待を抱いているのかも重要である。参加国に強いコミットメント(関与)を求めるG7やOECDと異なり、BRICSは基本的に拘束力がなく緩やかな連合体であり、どんな国でも参加しやすい枠組みとなっている。グローバルサウスの多くは西側との関係を維持しつつ、BRICSの枠組みを巧みに活用し、双方から利益を引き出していく姿勢を続けるだろう。
BRICSにおける議論の中で、「脱ドル化」が注目されるテーマの一つとなっている。昨年8月に南アフリカで開催された首脳会議の声明では、「財務大臣および中央銀行総裁に、現地通貨、決済手段およびプラットフォームの問題を検討し、次回のサミットまでに我々に報告するように…
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週刊エコノミスト
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