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AI教材ベンチャーが自社ブランド塾のフランチャイズ展開 稲留正英・編集部
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塾の人材不足に悩む地方を中心に、生徒の基礎学力の向上を目指す──。AIを使った学習教材を開発するatama plusが自社ブランドの塾をフランチャイズ展開し始めた。
AIが“講師”役 地方の塾の人材不足にも対応
AI(人工知能)を使って、基礎学力の習得を効率化する教材を開発・提供しているatama plus(アタマプラス、東京・港区)は、6月から自社の教材を使った自社ブランドの塾をフランチャイズ展開し始めた。教科を生徒に「教える」役割をAI教材に担わせることで、講師経験の有無にかかわらず、塾の運営が可能になる。人口減少が進む中、特に塾講師や塾運営の人材が不足している地方で、ニーズがあると判断した。講師に頼らないAI教材は授業料の定額化も可能で、都市部でも費用を抑えて子供に好きなだけ学ばせたい保護者の需要があると見ている。
フランチャイズ展開するのは、「進学個別atama+(アタマプラス)塾」。6月から東京都国分寺市や横浜市で開塾。今後、長野県でもスタートする。
2017年創業のatama plusはAIを使った学習教材「atama+」を小中高生向けに開発し、塾や予備校に提供している。現在、駿台予備学校、Z会をはじめ、全国の上位100の塾・予備校の3割が採用し、全体では4000教室以上が導入している。提供する教科は高校生で数学、英語、物理・化学、生物、古典、地理・歴史、情報だ。
「つまずきの原因」特定
同社の教材は、生徒がタブレット、スマートフォン、パソコンを使って、「アタマ先生」と名付けたAIの先生と一緒に勉強するところに特徴がある。アタマ先生は、学習する生徒とのやり取りを通じて、その教科における生徒の理解度や学習の進捗(しんちょく)度を把握、それに応じて、学習内容を随時変化させる。例えば、高校数学の「正弦定理」において、生徒が問題を解けない「つまずきの原因」が中学で学ぶ平方根や三平方の定理の理解不足にあると判断すれば、そこまでさかのぼって演習問題、復習問題を出す。さらに、要所要所に、講師による講義動画を提供し、理解を深めさせる。塾側では、タブレットやパソコンを通じて、生徒一人一人の理解度を把握し、学習の進捗を管理できる。
多くの大学があり、学生や教職経験者が豊富な大都市圏に比べ、地方では講師の不足が深刻化している。その結果、地方の塾では都市部と同様の教育を提供できず、地方と都市部の教育格差が広がる一因となっている。
そうした問題意識から、同社は22年6月から、長野県でatama+を主力教材とした直営塾3校を開校。同県の個別指導塾「超個別指導塾まつがく」(本部:長野市、林部一成代表)の協力を得ながら、生徒の学習向上を効率的に実現する教育モデルを模索してきた。
検証の結果、従来の集団指導や個別指導塾に比べ講師数が少ないにもかかわらず、生徒の大学合格実績が大きく伸びることが分かり、今回、フランチャイズ展開に踏み切った。
長野県が地盤のまつがくも講師不足に悩まされ、19年からatama+を長野県内で運営する29教室に導入した。同塾の林部代表によると、従来は生徒20人のクラスでは講師が7人必要だったが、導入後は2人で対応できるようになった。また、高校の全教科に対応したため、高校生や浪人生への個別指導も可能となった。これまでは、講師確保が難しく小6から中3までの指導が限界だった。一方、生徒の学力は大幅に向上し、国公立大学の合格者数は20年度の6人から、24年度は42人に、私立大学は12人から235人に大きく伸びた。生徒数も20年から23年にかけ、18%増加したという。
AI教材では、塾の講師の役割が、教科を教える「ティーチング」から、学習の進捗管理や進路の指導などの「コーチング」に変わる。林部代表によると、コーチングではコミュニケーション能力の高さが重要…
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週刊エコノミスト
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