鉄道の無人化 省力化と少子化にせき立てられ 完全自動運転も視野に 土屋武之
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コロナ禍を経て、テレワークの一定の普及、少子化ならびに人手不足で、鉄道の今後の見通しは不透明な状況だ。その中で省力化が鉄道の生き残りの鍵を握る。
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新型コロナウイルス感染症の流行も落ち着きを見せ、日本の鉄道の輸送量も以前のレベルへと回復する傾向にある。勤務形態の変化、ひいては通勤客の大幅な減少を呼ぶかと思われた「テレワーク」も、一定の普及は見られるものの、現在は再び会社へ出勤しての勤務へと回帰しつつある。2024年6月7日に公表された総務省の「令和5年通信利用動向調査報告書」によると、23年8月末現在でテレワークを導入している、あるいは導入予定がある企業は、合わせて調査対象企業全体の52.9%であり、これは22年の55.2%より2.3ポイント低下した。
ただコロナ禍前のテレワーク普及率は18年で29.5%にとどまっていたことを思えば、相当な利用拡大ではある。通勤輸送への影響は、長期的な傾向としてはまだ続いている。沿線の住宅開発がほぼ完了した、つまりは転入人口の大幅な増加が終わっている大都市圏の鉄道ほど、その傾向が強い。
東京都南部と神奈川県東部を営業エリアとする東急電鉄の、22年度の定期券客は5億4289万8000人。増加傾向にはあるものの、19年度の7億2228万3000人と比べると、約25%も減少した。沿線人口は19年度の530万5000人から22年度は536万人と微増。特に生産年齢人口(15〜64歳)も増加傾向にあるにもかかわらずだ。
情報・通信業を筆頭に、テレワークになじむ業種の勤務形態の構造的な変化も、一方で顕著になっている。まだ完全な将来見通しはできない、不透明な状態といえそうだ。
地方を襲う少子化
一方で、そもそも若年層の流出がかねてより著しい、首都圏以外の地方の中小民営鉄道では、コロナ禍に輪をかけて少子化が深刻な影響を与えており、二重苦、三重苦の状態だ。まず、明確に出ている影響が若い乗務員の不足。現在、路線バス会社では押しなべて運転士が足りず、減便や路線廃止が相次いでいる。利用客の主力である高校生自体の数は減っている。それでも朝夕の混雑時には集中的に運転士の数が必要だが、このまま手をこまねいていると、少ない利用客にも対応できない状況になりかねない。
それが鉄道にも及んできた。福井県を走る福井鉄道では、23年10月14日のダイヤ改正で日中の急行列車を廃止するなどした。理由は利用者減とともに、運転士の負担軽減とうたわれている。朝夕に必要な乗務員の数を確保するための苦肉の策だ。24年3月16日の北陸新幹線敦賀延伸開業に合わせて、一部の列車が復活したのは喜ばしいが、これも長期的に見ると運転本数が維持されるかどうかは見通せない。同様な列車削減の例は、愛媛県の伊予鉄道などにも見られ、県庁所在地クラスの都市を沿線に抱えている鉄道であっても問題は深刻である。
対応としては、さらなる省力化が求められるが、そもそも経営状況が芳しくない中小民鉄においては、人件費削減を目的とするワンマン化や無人駅化が1970年代から進められてきた経緯がある。これ以上の人員減は難しい。結果として、まず中小民鉄から運転本数削減に至るのもやむを得ない流れだ。経費面は自治体の補助である程度は支えられるものの、人材不足には決め手がなかなか見当たらない。今年…
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週刊エコノミスト
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