鉄道と一体のまちづくり 事業者と沿線地域の“資源”を活用して 大塚良治
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鉄道が生き残るには、沿線自治体と協働し、駅を拠点にしたまちづくりが求められる。その際に、事業者の資源を効果的に活用し、鉄道の価値をいかに向上できるかが鍵となる。
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人口減少社会では、旅客運輸収入の減少は避けられない。自治体などと協働して、鉄道の価値向上に取り組む必要がある。
単なるプロ野球本拠地という枠を超えて、JR新駅を前提とした壮大なまちづくりを進めているのが、プロ野球団・北海道日本ハムファイターズの本拠地エスコンフィールドHOKKAIDOを核とする北海道ボールパークFビレッジ(BP)(北海道北広島市)だ。2028年4月には、北海道医療大学がBPへ移転する。BP運営会社のファイターズ スポーツ&エンターテイメント(FSE)常務取締役事業統轄本部長の前沢賢氏は「大学誘致は15年ごろから考えていた」と明かす。
さらに前沢氏は「新本拠地と新駅はセットであることは北広島市から誘致を受けた時からの話であり、新駅は同市との共通理解があって実現する。しかしながら、新駅から球場までの動線設置などの費用はFSEで捻出しなくてはならないと思っている」と話し、「その上で、一日も早い新駅設置をお願いしている。北海道医療大学の誘致および設置は新駅設置が前提であり、開校する28年春には新駅ができるものと信じている」と強調する。
もともと広大な原野が広がっていた土地に、鉄道駅設置を前提にBPを先行開業させ、その後に鉄道駅設置が実現する点で特筆すべき事例であり、鉄道を前提とした「究極のまちづくり」の一つの形であるといえる。
駅周辺の活性化
新幹線新駅を核とした周辺開発の事例として、北陸新幹線の新幹線単独駅として開業した越前たけふ駅(福井県越前市)がある。越前市が15年12月に公表した「北陸新幹線南越駅周辺整備基本計画」では、駅西側での駅前広場・道の駅・多目的広場および駐車場・修景施設の整備、駅東側でのパーク&ライド駐車場整備などが示された。その後、20年3月に「南越駅周辺まちづくり計画」を、21年4月には「越前市新幹線駅周辺まちづくりガイドライン」を公表した。これらを踏まえて、23年3月には、円滑な企業立地の誘導を目的に「越前たけふ駅周辺整備推進事業 事業実施計画書」を公表した。
同駅周辺では、23年3月18日に「道の駅 越前たけふ」が開業した。約600台が駐車できる無料駐車場も用意されたが、今後これらの駅周辺開発を地域活性化につなげる必要がある。また、北陸新幹線は敦賀駅─新大阪駅間の延伸が計画されており、実現すれば、越前たけふ駅─新大阪駅間の所要時間は現行の約90分(乗り換え時間含まず)が50分程度になると筆者は予想する。そうなれば、大阪・京都は通勤圏となるだろう。実現には長い年月を要するが、北陸新幹線新大阪延伸を見据えた長期的視点でのまちづくりを検討する余地は十分にある。
「鉄道と一体のまちづくり」を考えることは、鉄道駅周辺の活性化を考えることとほぼ重なり合う。海老名駅(神奈川県海老名市)は新宿や横浜などに直結する好立地にあるにもかかわらず、海老名駅東口では小田急電鉄が02年4月19日に複合商業施設ビナウォークを開業させてテーマパークのようなまちを作り上げていたのとは対照的に、西口周辺は、10年代前半まで田園風景が広がっていた。
小田急は15年8月…
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週刊エコノミスト
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