私のこの1冊『ドルと円』 「円安シンドローム」の危機感を 黒瀬浩一
有料記事
『ドルと円』(ロナルド・マッキノン、大野健一著、日本経済新聞社)
戦後、長くおびえ続けた「円高」も今は昔――。2022年以降の円安は、「安い日本」「貧しくなった日本」を象徴する存在となった。なぜ、円安が進むのか、なぜ、ドルは強いのか、円安に高まる関心や不安を契機に、通貨を学んではどうか。円、ドル、ユーロ、ポンド、人民元……国家や地域の威信である通貨を学ぶための最適な1冊を専門家に厳選してもらった。どれも通貨を理解するために欠かせない名著ばかりである。乱高下相場に惑わされないための読書だ。
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「円高シンドローム」で有名な同書は、1998年に出版された。当時は日米貿易摩擦が原因で、日本は米国から激しくバッシングされた。その際に米国が武器としたのが円高だった。端的に言うと、日本の対米貿易黒字が解消するまで円高にすると圧力をかけられた。
時の覇権国とどういう関係を構築するかは国益に直結する問題だ。戦前の日本は、時の覇権国だった英国と日英同盟を結び、これにより日露戦争に勝利して一等国の仲間入りをした。
戦後は東西冷戦の中、新たな覇権国になった米国の庇護(ひご)を受け、非武装、経済重視で85年ごろまでは経済発展にまい進した。
しかし、その後は米国からバッシングされたことで日本経済は暗転した。バブルの生成と崩壊も含め、その個別具体的な原因の全てに通底するのが、円高シンドロームだった。
以下は本書による円高シンドロームの端的な説明である。
日本は日米貿易摩擦を解決するための財政政策、金融政策、産業政策の最適解が見つけられず、政治が介入できなかった金融政策が「最も弱い輪」となり、円高を止められなかった。無論、最適解の目的は日米貿易摩擦の沈静化だ。
そして、今まさに円高シンドロームの教訓を生かす時が来ている。日本では2022年以降、円安を阻止しようと為替介入がたびたび実施された。だが、為替介入には円安トレンドを変える力はなく、時間稼ぎの効果しかない。円安の背景には日米金利差もある。
市場は期待で動く
しかし米国で利下げが、逆に日本では利上げが視野に入ったとはいえ、…
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週刊エコノミスト
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