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3号機打ち上げ成功で「H3」の商業打ち上げ市場参入へ前進 鳥嶋真也
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国産の新型ロケット「H3」が2月の2号機に続いて、3号機の打ち上げに成功した。まだまだ課題は多いが、激しい国際競争の中で追い風も吹いており、商業打ち上げ市場参入へ期待が高まっている。
円安とライバルの停滞は好機
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は7月1日、新型ロケット「H3」3号機の打ち上げに成功した。2月の試験機2号機に続いて打ち上げ成功を果たしたことで、本格的な運用開始と、国際競争が激しい商業打ち上げ市場への参入に向け、また一つ駒を進めた。課題は多いものの、追い風が吹きつつある。
H3はJAXAと三菱重工業が共同開発しているロケットで、現在の主力ロケット「H2A」の後継機として、日本の宇宙輸送の自立性を維持することを目的としている。また、打ち上げの低コスト化や、多種多様な衛星の打ち上げに対応できる柔軟性の向上なども図り、国際競争が激しい商業打ち上げ市場への参入も目指している。
開発は2014年から始まり、当初は20年度の初打ち上げを目指していたが、新型の第1段ロケットエンジン「LE9」の開発に難航するなどして、大きく遅れた。昨年3月には、ようやく試験機1号機の打ち上げにこぎつけたものの、第2段エンジンに着火できず失敗に終わった。
JAXAなどは総力を上げて原因調査と対策を進め、今年2月、試験機2号機によって打ち上げに初めて成功した。
今回の3号機は、初めて名前に“試験機”と付かない打ち上げとなった。もっとも、ロケットの飛行中に第1段エンジンLE9の推力(パワー)を変える「スロットリング」機能の実証を行うなど、試験機的な要素も多々持ち込まれており、本格的な運用開始に向けた過渡期にある。
初の実用衛星打ち上げ
また、今回はH3にとって、初めての実用衛星の打ち上げ成功でもあった。試験機1号機では地球観測衛星「だいち3号」を搭載して打ち上げたものの、打ち上げ失敗により喪失した。その教訓から試験機2号機では、「だいち3号」を模したダミー衛星が打ち上げられた。
今回打ち上げられた「だいち4号」は、現在運用中の「だいち2号」の後継機で、電波を使って地表を観測できる「合成開口レーダー」を搭載している。雨天や曇天、夜間でも観測が可能なため、災害時の状況把握や防災などでの活用が期待されている。
一方、今回の打ち上げは成功したが、まだ課題が残っている。例えば、H3には「30形態」(液体燃料だけで飛行)という小型衛星や中型衛星の打ち上げに最適化した構成があるが、その地上試験や飛行実証はまだこれからだ。30形態は、ブースター(補助ロケット)を装着せずに飛行するという日本初の技術を採用しているうえに、打ち上げ価格を50億円に抑えることも求められており、開発のハードルが高い。
また、現在のLE9は暫定的な仕様のものであり、3Dプリンターで製造した部品を使用したり、エンジンの心臓部にあたるターボポンプの不具合を解消したりした、完成形のエンジンの開発はいまなお続いている。
さらに、当初は、3号機から運用を三菱重工に移管し、打ち上げサービスを事業化して市場に参入する、本格的な運用段階に入ることになっていたが、その計画も遅れている。なにより、H3の開発が遅れていることで、日本の宇宙計画全体にも遅れなどの影響が生じている。今後、早急にH3の開発を完了し、本格的な運用段階に入り、遅れを取り戻していくことが求められる。
円安が追い風に
このような中で、商業打ち上げ市場への参入に向けて、追い風が吹きつつあるのも事実だ。
まず、円安の影響で、日本のロケットが相対的に安く、逆に他国のロケットは高…
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週刊エコノミスト
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