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経済・企業 国際収支を読み解く

“神田懇談会”があぶり出した日本の課題と処方箋 浜條元保・編集部

 一見、無味乾燥なデータを丹念に解きほぐすことで、日本の構造的な課題が浮き彫りになる。国民一人ひとりの税金で作られた「宝の山」と正面から向き合おう。

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「国際収支面から見た我が国の状況は盤石なように見えるが、その内容を子細に分析していくと、決して楽観できる内容とは言えない」

 7月末の退任を控えた7月2日、財務省の神田真人前財務官肝煎りの懇談会がまとめた報告書には、強い危機感がにじむ。財務官在任中の3年間、その多くの時間と労力を円安対策にとられた。一時、1ドル=161円台と38年ぶりの円安に見舞われ、幾度となく円買い・ドル売りの為替介入を余儀なくされた(図1)。

 2022年以降の円安を日本の構造問題としてとらえ評価・分析し、その処方箋を得ようとする試みが、3月から始まった前財務官主催の「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」懇談会である。参加する委員は神田氏自ら人選にあたった、第一線で活躍する経済学者やエコノミスト20人。「政府に批判的な論客にもあえて入っていただいたこともあり、建設的な議論ができている」と、1回目の懇談会から手応えを感じていた。

 国際収支とは、対外的な取引を体系的に記録した経済統計である(図2)。報告書は国際収支を「日本経済の構造を凝縮したものであるため、こうした国際収支の状況は、日本経済が抱える構造的課題を浮き彫りにするもの」と位置づけた。貿易・サービス収支、所得収支、金融収支と項目ごとに各委員が問題提起し、それを基に活発な議論が展開された。5回の議論を経て報告書がまとまった(下図は懇談会報告書の要旨)。

 神田氏が「宝の山」と表現する国際収支を読み込むことで、どんな日本の構造的課題が浮き彫りになるのか。

 23年の国際収支は、経済取引で生じた経常収支が21.3兆円の黒字だった。経常収支は輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支、旅行や知的財産権などのサービス収支、日本企業が海外子会社から受け取る利子や配当などの第1次所得収支、政府開発援助(ODA)などの第2次所得収支からなる。

日本に帰らない円

 経常収支は1981年以来黒字が続くが、90年代と2010年代後半以降では、その中身は大きく変化している。原材料を海外から輸入し、高付加価値の品目を輸出する貿易立国から海外に工場を建設したり、企業をM&A(合併・買収)して稼ぐ投資立国へと様変わりしているのだ。

 すなわち、90年代までは経常黒字の大半は貿易黒字だった。だが、10年までに対外投資からの「上がり」である第1次所得収支黒字と貿易収支の黒字が均衡、11年以降は第1次所得収支の黒字が中心になっている(図3)。

「(第1次所得収支黒字の大半を占める)直接投資収益については、配当として還流されるのは約半分であり、残りは再投資収益として海外拠点での事業拡大に充てられている」と報告書は分析。経常収支の中身の変化に注目し、キャッシュフロー(CF)ベースで議論する必要性を懇談会に参加したみずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは説いた。

 唐鎌氏の試算によると、CFベースでは22、23年の経常収支は赤字だった。国際収支を深掘りすることで、表面上の統計とは違う日本経済の姿が浮き彫りになる。海外子会社から「日本に帰らない円」が需給面で円安圧力になっているとの推論が成り立つ。

 対外直接投資が急増し、その結果として第1次所得収支の黒字が膨らむ一方で、日本に対する海外からの直接投資の圧倒的な少なさを報告書は指摘している。「対内直接投資残高の対GDP(国内総生産)比は、OECD(経済協力開発機構)加盟国中で最下位となり、更に、国連貿易開発会議(UNCTAD)の統計では198カ国・地域中196位となるなど、著しく低い水準にある」とし、北朝鮮(195位)の後塵(こう…

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週刊エコノミスト

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