経済・企業 鉄道新時代

インタビュー「鉄道を筋肉質に 駅周辺開発で価値向上」喜勢陽一・JR東日本社長

 コロナ禍を経て日本の鉄道は次のステージに向かおうとしている。今後の鉄道の在り方について、JR東日本の喜勢陽一社長に聞いた。(聞き手=村田晋一郎/中西拓司・編集部)

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── JR東日本で、初めて民営化後入社組として4月に社長に就任した。

■国鉄時代に採用された方々の大半が3月31日に定年を迎えた。もちろん再雇用で引き続き残って働く方々もいるが、JR採用組が経営の前面に立ち、組織や業務を担っていく時代がやってきたことに感慨を抱いている。国鉄改革は1987年だったが、その最後の節目を迎え、本当の意味での民間会社として新しいスタートを切る。時代が大きく変わるタイミングで、自分が経営のかじ取りをすることになったことを重く受け止めている。

── コロナ禍からの現在の鉄道事業の回復状況は。

■コロナ禍前の2018年度(19年3月期)と比べると、23年度は定期が82.5%、在来線が95.6%、新幹線が89.9%で、運輸収入全体では90.3%となった。

── 鉄道事業はまだ伸ばせる感触を持っているのか。

■中期目標の27年度の業績予想は18年度比96%まで戻ると想定している。ただしこれは堅い数字で、上振れる要素もあるので、コロナ禍前を超えていきたい。今後の課題は中長距離で、新幹線をどこまで伸ばしていけるかだと思う。

── 新幹線の状況は。

■コロナ禍前の新幹線は広い意味でのレジャーとビジネスが半々だったが、ビジネスの出張需要がコロナ禍で落ち込み、戻りが遅い。インバウンド(訪日外国人)を含めてレジャーを取り込むことが中長期の見立てになっている。

── 北陸新幹線延伸や山形新幹線新型車両導入の効果は。

■北陸新幹線は3月のダイヤ改正で敦賀駅(福井県)まで延伸し、延伸区間へのお客様の流動は15~20%増えている。秋に開始予定の北陸デスティネーションキャンペーンにつなげて北陸新幹線の利用を増やしていけると考えている。

 山形新幹線は新型車両「E8系」を導入し、現在5編成入っている。最高速度を時速275キロメートルから300キロメートルに上げて所要時間を最大4分短縮した。また快適性を向上したほか、バリアフリー対応や大型荷物を置くスペースを設けるなど、好評を得ている。

資産データを獲得

── 鉄道以外のサービスを強化しているが、5月9日金融サービス「JREバンク」を開始した。

■早い時期に100万口座を目指すと発表したが、直近で申し込みが36万口座まで来ていて、手応えを感じている。

── 利用者を増やしたその先で目指すものは。

■今後も増やしながらになるが、銀行代理店業を手掛けることで、JREバンクを利用するお客様の「資産」のデータを把握できるようになる。これまで当社が扱ってきた輸送や購買のデータに資産のデータが加わることで、新しいサービスを展開できると考えている。また、JREバンクとポイントを結びつけることで、当社のサービスの利用を促進させ、Suicaの生活圏をしっかり作っていきたいと考えている。

── 他の鉄道会社も注力している不動産事業については。

■27年度に不動産ファンドの規模を4000億円にする目標を掲げている。また、7月1日に新会社「JR東日本不動産株式会社」を作った。この会社は社宅などの事業所用地のバリューを高めて流動化したり、または外部の物件を購入してバリューアップしたりして回転型ビジネスを展開する。これにより、4000億円の目標を上積みできると考えている。

── その他の新規ビジネスの方向性は。

■今取り組んでいるのはECビジネスの「JREモール」で、27年度に30…

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