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教養・歴史 通貨を学ぶ本

私のこの1冊『円の実力』 通俗的見方を修正し円安に迫る 根本直子

『円の実力』(佐藤清隆著、慶応義塾大学出版会)

 戦後、長くおびえ続けた「円高」も今は昔――。2022年以降の円安は、「安い日本」「貧しくなった日本」を象徴する存在となった。なぜ、円安が進むのか、なぜ、ドルは強いのか、円安に高まる関心や不安を契機に、通貨を学んではどうか。円、ドル、ユーロ、ポンド、人民元……国家や地域の威信である通貨を学ぶための最適な1冊を専門家に厳選してもらった。どれも通貨を理解するために欠かせない名著ばかりである。乱高下相場に惑わされないための読書だ。

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 本書は、最新のデータによって古い通説的な見方を修正し、円の実力とは何かを解き明かしている。為替市場を扱った経済書は多いが、円の需要者である企業の行動に光を当て、地域や業種による違いにまで敷衍(ふえん)している点が新しい。世界的に見ても貴重な研究成果であり、政策担当者、企業経営者に多くの示唆を与えている。

 円の実質実効レート(相手国、地域の貿易額で為替レートを加重平均し、さらに名目実効為替レートから物価変動分を除いたもの)が、1970年代初頭の水準まで低下しており、新聞などでは「円の実力低下」がセンセーショナルに取り上げられている。著者は実質実効レート低下の主因は、海外と比べた日本の物価上昇の低さにあり、その背景には生産性の低さと名目賃金の停滞、すなわち日本経済の弱さがあるため、それに沿った政策対応を考えるべきだと述べている。

 さらに円の実力について著者は、「国際通貨としての機能」が重要であると指摘する。80年代以降、円の国際化が進められてきたが、日本の円建て貿易比率は輸出で36%、輸入で23%(2022年上半期)に過ぎず、他の先進国に比べて自国通貨建ての比率が低い。為替変動に影響を受けてきた日本企業がなぜ、円建ての取引を選択せずドル建てあるいは輸入国の通貨建てを選択するのかは長年謎とされていた。

 著者は07年からRIETI(独立行政法人経済産業研究所)のプロジェクトに参加し、日本企業を対象に、貿易建値通貨選択や為替リスク管理について、インタビューやアンケートに基づく調査を…

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