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教養・歴史 通貨を学ぶ本

私のこの1冊『成長の臨界』 円安の底流を探り、将来を考える 長谷川克之

『成長の臨界』(河野龍太郎著、慶応義塾大学出版会)

 戦後、長くおびえ続けた「円高」も今は昔――。2022年以降の円安は、「安い日本」「貧しくなった日本」を象徴する存在となった。なぜ、円安が進むのか、なぜ、ドルは強いのか、円安に高まる関心や不安を契機に、通貨を学んではどうか。円、ドル、ユーロ、ポンド、人民元……国家や地域の威信である通貨を学ぶための最適な1冊を専門家に厳選してもらった。どれも通貨を理解するために欠かせない名著ばかりである。乱高下相場に惑わされないための読書だ。

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 本書は日本を代表するエコノミストの河野龍太郎氏による日本経済論である。日本経済といってもグローバリゼーション、テクノロジー、国際金融・通貨、地球環境問題など多岐にわたるテーマを歴史学、政治学、社会学などの多角的な視点から論じた力作である。タイトルは臨界、すなわち存亡の縁にある日本経済の厳しい現実を示したものだ。円安の底流を探り、通貨としての円の将来を考える上で、実に多くの示唆を得ることができる。注目したいのは以下の3点である。

 まず、日本の長期低迷の真因である。個人消費の停滞から企業の国内での成長見通しは高まらない。ビジネスモデルの変革が遅れ、慎重な企業行動を維持していることが自己成就的に消費低迷を招いていると著者は説く。経営者が雇用維持の責任を事実上負っていることもイノベーションが乏しい理由の一つであり、日本の労働保蔵策が需要構造の変化に対応できていないとの見立てである。

 歴史的な円安の一因には、著者が分析する日本の成長力の欠如があると思われる。足元で急速な円安は一服しているが、今後を占う上では日本経済の持続的な成長軌道を描くことができるかが重要なポイントとなろう。

国際通貨体制の行方

 次に、日本の財政・金融政策の帰結である。財政刺激や金融緩和などのケインズ的なマクロ安定化政策が資源配分や所得分配を大きくゆがめ、潜在成長率や自然利子率を引き下げる非ケインズ効果を生んでいると著者は解説する。

 日銀のバランスシート(資産と負債)と統合政府の負債膨張の結果として、将来的に物…

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