私のこの1冊『貨幣システムの世界史』 貨幣は国家なしで成立する 平山賢一
有料記事
『貨幣システムの世界史』(黒田明伸著、岩波現代文庫)
戦後、長くおびえ続けた「円高」も今は昔――。2022年以降の円安は、「安い日本」「貧しくなった日本」を象徴する存在となった。なぜ、円安が進むのか、なぜ、ドルは強いのか、円安に高まる関心や不安を契機に、通貨を学んではどうか。円、ドル、ユーロ、ポンド、人民元……国家や地域の威信である通貨を学ぶための最適な1冊を専門家に厳選してもらった。どれも通貨を理解するために欠かせない名著ばかりである。乱高下相場に惑わされないための読書だ。
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外国為替レートの予測は難しい。通貨そのものの価値を推し量るのではなく、異なる通貨同士の相対的な位置づけを思い描かねばならないからだ。ある通貨に対しては上昇しても、別の通貨に対しては下落することもあり得る。そこで、難易度の高い為替レートの予測をするのではなく、改めて「通貨とは何か」という原点から考え直してみたい。重要なテーマだけに、時間軸をさかのぼり、空間軸もグローバルに拡張する必要があるだろう。
それに際して適した書籍を挙げるならば、黒田明伸著の『貨幣システムの世界史』をおいて他にはない。同書は、18世紀にウィーンで鋳造されたマリア・テレジア銀貨が、20世紀に至るまでアフリカ・西アジアといった遠く離れた地で、優先的に使用されていた謎から説きおこす名著である。
ハプスブルク帝国で鋳造された金属貨幣が、時代を下り、地域を跨(また)いで決済通貨として機能していた事例は、新たな気づきを与えてくれる。21世紀を生きるわれわれは、一つの国では、一つの決められた通貨を使用するものという固定観念を抱いているからだ。著者は、「国家が貨幣を独占的に管理する時代にわれわれは生きてきたが、貨幣そのものは国家なしで成り立つ」ことを、多くの歴史的事例を基に解き明かしていく。たとえば、中国で鋳造された銭は、わが国だけでなく、アジアの多くの地域で使用されてきた歴史的事実などである。限られた地域での現地決済通貨や、遠隔地交易に伴う地域間決済通貨は、国家の強制なしに補完的に併存してきたのである。いにし…
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週刊エコノミスト
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