国際・政治 トランプvs.ハリス

いずれの候補も対中強硬 台湾有事なら日本は戦場に 猿田佐世

民主党重鎮のペロシ下院議員は対中強硬派だ(2024年6月にインド北部でダライラマ14世と会談した後の会見、Bloomberg)
民主党重鎮のペロシ下院議員は対中強硬派だ(2024年6月にインド北部でダライラマ14世と会談した後の会見、Bloomberg)

 トランプ氏、ハリス氏どちらが大統領になろうとも中国との関係は緊張が続く。日本は突発的な軍事衝突を避ける知恵が求められる。

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 ワシントンに通っての定点観測が15年を超えた。ワシントンに行けばさまざまな人に会い続けるが、日本人である筆者にとって、この15年間で、今が一番面談のアポイントが入りやすい。皮肉なことに中国のおかげである。議会でも専門家でも、誰もが安保の最重要テーマは中国であると認識しており、「中国にどう対処するか」との視点から日本への関心を増している。

 ハリス氏の登場で11月の大統領選では民主・共和いずれの勝利もあり得る情勢となった。しかし、いずれが勝とうとも、対中政策が米国の安保政策の要であり、中国に対して厳しいスタンスをとるであろうことも変わらない。では、両陣営にはどのような違いがあるのか。

力で対抗するトランプ氏

 まず、トランプ氏再選の場合である。7月の共和党大会は綱領で「力による平和」を掲げると宣言した。この点について、第2次トランプ政権となれば閣僚級ポジションへの就任が取り沙汰されるロバート・オブライエン氏(前政権にて大統領補佐官)は、「米国経済を中国から切り離すべき」として、トランプ氏が提唱するように、中国製品に60%の追加関税を賦課し、中国への技術流出に対する輸出規制を強化するなど、より明確な措置を講じるべきだという。また、日本、オーストラリア、フィリピン、韓国、シンガポールなどの同盟国・パートナー国に対して自国防衛へのさらなる貢献を求め、合同軍事演習等を通じて対中軍事力をさらに強化する必要があるとしている。やはりトランプ政権下での政権入りが目されているエルブリッジ・コルビー氏(前政権にて国防次官補代理)は、日本は防衛費を対国内総生産(GDP)2%から3%に増額すべきだと日本メディアのインタビューに答えた。

 このようにトランプ政権の場合、圧倒的な力を中国に見せつけるためにも、日本にさらなる防衛負担増を露骨に求めてくることが強く予想される。

 なお、トランプ政権では、前回同様、大統領個人の予測不可能性に外交政策も強く左右されうることを忘れてはならない。しかも、第1次政権で要職についていた安全保障の専門家たちは、その多くが議会襲撃事件を批判したなどの理由で再びの政権入りの可能性を閉ざされており、今回はよりトランプ氏に従順な側近だけが政権を担当すると考えられる。政権の予測不可能性がさらに高まるともいえる。

 そのトランプ氏の価値観の中心には、「同盟国による同盟のただ乗りで、米国は損をしている」というものがある。前政権時代には、日米安保条約破棄の可能性についてすら側近に漏らしていたとされる。しかし、こと対中政策となると、共和党の重鎮議員たちや周辺の安保専門家たちは総じて中国への軍事対抗姿勢を強め、結果、同盟国との安保協力重視の立場が顕著であるため、このトランプ氏の持論は具体化されない可能性が高いだろう。

対話は継続するハリス氏

 これに対し、「ハリス政権」となった場合であるが、バイデン政権の政策の継続になることが強く予想されている。すなわち、日米豪印4カ国による戦略対話「QUAD(クワッド)」、米英豪の安全保障協力の枠組み「AUKUS」(オーカス)や日米韓、日米比といった準同盟関係のミニラテラルな地域協力枠組みの強化とともに、同盟国や友好国の軍事力強化を支援し、米陣営としての統合的な抑止力を高めていくという方針である。この結論だけ見れば、圧の強弱はあれども、さほど「トランプ政権」と変わらない。

 もっとも、…

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