日米同盟再考の契機としての大統領選 日本は“実質核武装”に踏み込む自覚があるのか 寺島実郎
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台湾有事の際、日本は米国による中国への核攻撃にノーが言えるのか。米大統領選は、同盟関係を見つめなおす契機となる。
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米国大統領選の選挙戦中盤における最大のヤマ場である候補者討論会が9月10日に迫っている。共和党候補のトランプ前大統領、民主党候補のハリス副大統領に質問したいことがある。「2045年、日本は戦争に負けて100年を迎えるが、米軍基地はいまのままあるのか」と──。
もちろん、これは日本自身への問いかけでもある。大統領選後に行われる最初の日米首脳会談──その時点で日本でも新首相が選出──における記者会見では、日本のジャーナリストは上記の質問を投げかけるべきであろう。なぜなら、21世紀の日米関係を見据える上で重要な議論の入り口であるからだ。まずは今回の大統領選が持つ重要性について論考を示したい。
白人層、少数派転落の焦燥
7月13日、トランプ氏はペンシルベニア州の集会で銃撃を受けたが、奇跡的に軽傷で済んだ。事件の2日後に始まった共和党大会(7月18日まで)でバンス上院議員を副大統領候補に指名した時、トランプ氏は「この選挙は勝った」と思ったはずだ。
対するバイデン大統領は、トランプ氏とのテレビ討論会(6月27日)で言葉に詰まり、言い間違いを繰り返す失態をさらした。「トランプよりもトランプ主義者」とされるバンス氏を副大統領に選んだこと自体が、トランプ氏の判断を投影したものだ。日本では、「トランプ氏の再選はほぼ確実」とする「ほぼトラ」なる言葉が流布した。
ところがわずか1カ月半。本稿執筆時点(8月下旬)で、大統領選のパラダイムが変わった。バイデン氏が大統領選からの撤退を表明し、ハリス氏が民主党大統領候補になる流れが短期に形成された。直近の世論調査ではハリス氏支持がトランプ氏支持を上回る数値も出ている。ただ、選挙戦は予断を許さない。鍵を握る接戦7州の状況を詳細に分析しても、ほぼ拮抗(きっこう)している。
民主党候補がハリス氏で固まる過程で筆者が最も注目したのは、オバマ元大統領によるハリス氏支持の動きだった。オバマ氏の支持表明は他の民主党有力者の中でワンテンポ遅れた。なぜか。民主党がハリス氏を立てることで、大統領選が熾烈(しれつ)な戦いになることを黒人初の大統領オバマ氏がよく理解しているからだと推測する。キーワードは「ホワイト・ナショナリズム(白人たちの愛国主義)」だ。
表1は、16年と22年の米国の人口構成だ。まもなく23年の人口構成も発表される見込みで、推測するとあと1回か2回の大統領選挙で白人はマイノリティー(少数派)に転落しそうだ。CNNの出口調査によると前回20年選挙では白人投票者の58%がトランプ氏に向かった。また、白人でかつプロテスタントの72%がトランプ氏に投票したという。
16年大統領選でトランプ氏が当選に至ったのは、それ以前の8年間におけるオバマ政権への失望と反発が起こした流れだった。トランプ登場を支えたエネルギーを約言すれば、ホワイト・ナショナリズムだ。オバマ政権の8年間は、政策論的にはそれほど失態もないし、批判されるような無能力の政権ではなかった。それでも、中国に行っては頭を下げ、広島で花輪を手向けるオバマ氏に対して、被害者意識を駆り立てられた貧しい白人層を中心に不安と失望が高まった。それが「アメリカ・ファースト」「アメリカをもう一度偉大に」と叫ぶトランプ現象に火を付けた。
ジャマイカ系黒人の父とインド出身の母を持つ女性で、マイノリティーの象徴のようなハリス氏が、ホワイト・ナショナリズムの緊…
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週刊エコノミスト
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