トランプ氏復帰はFRBのリスクに 過度な緩和で成長阻害も 南武志
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FRBに注文を付け続けているトランプ氏。再選となれば金融政策運営が大波に襲われるのは確実だ。
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今秋の米大統領選を巡り、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策決定が政治からの圧力に左右されるのではとの警戒感が高まっている。新型コロナウイルス禍からの回復局面で加速したインフレに対応するため、久しぶりに本格的な金融引き締め政策を採用したFRBだが、この先の金融政策には不透明感が漂う。
足元の米国経済は、労働市場の過熱感が解消し、インフレにも落ち着きが見られる。ただし、インフレ率は中期的目標である2%より幾分高いとの評価から、7月の連邦公開市場委員会(FOMC)では政策金利の据え置きが決定された。しかし、パウエル議長は次回9月のFOMCでの利下げを示唆したことから、マーケットは一気に利下げを織り込み始めた。
利下げの先送りを要求
こうした9月利下げ観測に対して、共和党の大統領候補、ドナルド・トランプ前大統領は早くも注文を付けている。11月の米大統領選を控えたタイミングの利下げは民主党陣営の候補、カマラ・ハリス副大統領を利するので先送りせよとの主張だ。
トランプ氏は大統領当時、リーマン・ショック後の大規模緩和からの政策正常化を進めていたイエレンFRB議長(現財務長官)に対し、解任をほのめかしつつ、利下げを迫った。それを拒絶したイエレン氏は1期で議長退任を余儀なくされた。後継議長に指名されたのはパウエル理事(当時)だが、彼も当初は利上げ路線を継承、結局19年7月まで利下げに転じなかった。それゆえ、トランプ氏はパウエル議長に対しても批判的だ。大統領に再登板した暁には解任しないまでも、3期目はないと明言している。
最近、トランプ氏はFRBの金融政策に対して大統領は発言権を持つべきと主張している。トランプ氏とタッグを組む副大統領候補のバンス上院議員もそうした考えを支持している。
一方でハリス氏は、FRBは米政府とは独立した組織であり、政策決定に干渉しないとFRBの独立性を尊重する姿勢で、これは過去40年間の歴代政権と同じだ。一般に、国民が政府に期待する主要課題の一つに「景気」があり、好況であれば現政権は支持されやすい。そのため、政府は金融緩和を歓迎する傾向がある。しかし、好況を求めるあまり、過度に金融緩和するとインフレ圧力を高めてしまい、結果的に持続的かつ健全な経済成長を妨げてしまう。
実際、1960〜70年代の大インフレ期のFRB議長だったアーサー・バーンズ氏はニクソン政権との距離が近過ぎて、インフレ抑制に失敗した。その後、短命議長で終わったミラー氏を経て、FRB議長に就任したボルカー氏は徹底的にインフレ退治を行った。その結果、インフレ沈静化には成功したが80年代初頭の米国経済は不振にあえぐことになった。
こうした反省から、米国では政府とFRBが一定の距離を置き、FRBの責務、独立性、説明責任などを確立してきた。具体的にFRBは「雇用最大化」と「物価安定」という二つの責務(デュアルマンデート)を課せられ、その達成に向けて独自の判断で政策運営を行い、それらの経緯について対外公表(議事要旨、議事録の公開、議会証言など)している。
米国の金融政策を決定するFOMCは7人のFRB理事と12地区連銀総裁の代表5人(ニューヨーク連銀総裁は毎…
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週刊エコノミスト
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