国際・政治 トランプvs.ハリス

現実主義者のハリス氏 政治ビジョンは不明確 中岡望

米大統領候補のハリス氏。7歳で両親が離婚、母子家庭で育った(ウィスコンシン州で2024年8月、Bloomberg)
米大統領候補のハリス氏。7歳で両親が離婚、母子家庭で育った(ウィスコンシン州で2024年8月、Bloomberg)

 急速に支持率を高めるハリス氏だが、その政治的信条やビジョンはいま一つ見えてこない。

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 米国の大統領選挙の状況は流動化している。現役の大統領が選挙の途中で撤退するという異例の事態が起こった。バイデン大統領では選挙に勝てないという民主党幹部の焦りが、バイデン降ろしにつながった。バイデン大統領は選挙から撤退するに当たり、ハリス副大統領を推挙した。

 ハリス副大統領はバイデン政権では目立たない存在だった。自らの主張をすることもなく、評価の低い副大統領であった。大多数の人は、ハリス副大統領がバイデン大統領に代わって民主党の大統領候補になるなど想像もしていなかった。

 だが予備選挙に出馬することが決まると、状況は一変した。バイデン大統領のもとで閉塞(へいそく)感を感じていた民主党の支持者は熱狂的にハリス副大統領を歓迎した。民主党を取り巻いていた陰鬱な雰囲気が解放感に変わった。

 世論調査でハリス副大統領がトランプ前大統領をリードし始めた。全国調査だけでなく、選挙の結果を決める「激戦州」でもハリス副大統領がトランプ前大統領をリードし、それまでの「トランプで決まり」といった雰囲気は一掃され、「ハリス・ブーム」が出現した。

 ハリス副大統領が副大統領候補に選んだウォルズ・ミネソタ州知事も民主党支持者から歓迎された。同知事は党内左派に近いリベラル派で、副大統領指名は左派を抑える狙いがあった。

カマラ・ハリス氏の経歴1964 カリフォルニア州オークランドで生まれる。現在59歳。父はジャマイカ出身、母はインド出身。7歳の時、両親は離婚し、母子家庭で育つ 86 著名な元黒人大学のハワード大学卒業、政治学と経済学で学位を取る 89 カリフォルニア大学ヘイスティング校の法科大学院で博士号を取得、卒業後、同州アラメダ郡地方検事補に就任、8年間勤務2010 カリフォルニア州司法長官に選出、初の女性、初のアフリカ系、初のインド系の州司法長官。14年に再選 16 連邦上院議員に選出。委員会は「情報委員会」「予算委員会」「司法委員会」など 19 民主党大統領予備選挙に出馬、バイデンと争う。後にバイデン支持を表明 21 バイデン政権の副大統領に就任、初の女性・黒人・アジア系副大統領 24 民主党大統領候補に指名(出所)筆者作成

 ハリス副大統領とは何者なのか。彼女はカリフォルニア州で初めての黒人の地方検事に選ばれ、初の女性の州司法長官に就任し、初のインド系アメリカ人の上院議員になり、さらに初の女性副大統領に就任した人物である。大統領選挙で当選すれば、初の女性大統領になる。

 彼女は1964年10月20日にカリフォルニア州オークランドで生まれた。現在59歳である。母はインド移民、父はジャマイカ出身の黒人である。ユニークな血筋で、トランプ前大統領は「ハリスは黒人の血とアジア系の血を都合良く使い分けている」と批判している。

 高校卒業後、ワシントンのハワード大学に入学し、政治学と経済学を専攻した。大学を卒業し、サンフランシスコのカリフォルニア大学ヘイスティング校の法科大学院に入学。90年に司法試験に合格している。性犯罪を専門とする地方検事補としてオークランドのアラメダ郡検察局に入局し、検事の道を歩み始めた。

 その後、サンフランシスコ地方検事局に採用され、10代の買春問題に取り組む。少女たちを犯罪者としてではなく、被害者として対応した。

警察の公開性高める

 2003年にサンフランシスコ地方検事選挙で当選を果たした。同州の最初の黒人の女性検事となった。その後、州司法長官に就任した。司法長官として刑事司法データをオンラインで一般公開する「Open Justice(オープン・ジャスティス)」制度を導入している。このデータベースは警察に拘置されている人の死亡者数や負傷者数のデータを収集し、公開するもので、警察の公開性を高めた。

 16年に上院選挙で当選し、国政の場に足を踏み入れた。19年に民主党の大統領予備選挙に立候補している。ハリス副大統領は『ワシントン・ポスト』のインタビ…

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