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経済・企業 空飛ぶクルマ最前線

❹開発の先頭走るジョビー・アビエーション 岩本学

 米ジョビー・アビエーションは開発・製造と運航の両方を手掛けるビジネスモデルが特徴だ。日本企業との関係も深い。

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 パリ五輪で期待されていた「空飛ぶクルマ(eVTOL)」の商業運航は結局、実現しなかった。独ボロコプターは、大手空港運営会社であるフランス・ADPグループとともに、パリ市内外でのルート案の公表など準備を進めていたが、昨年末ごろからパリ市関係者や市民より、「環境に悪く、少数の富裕層しか使えず、また騒音を発生する」と反対の声が上がり始めた。今年7月に入り、仏政府がセーヌ川での水上離着陸場の設置を許可した後も、パリ市が計画に反対し、法的措置も辞さない構えを表明していた。最終的に市内での飛行は行われず、代わりにパリ郊外の飛行場とベルサイユ宮殿で2度のデモ飛行の実施にとどまった。

 ボロコプターが開発を進める機体は、順調に進めば年内には欧州航空安全庁(EASA)より型式証明を取得できる見込みであり、また離着陸場もシャルル・ドゴール空港などパリ市内外の5カ所に既に設置されている。しかし、一方で政治的な物議を醸した運航サービスがすぐにパリ市内で実現できるとは考えづらい。新しいモビリティーが社会にどう受け入れられるかという社会受容性の問題にまさに直面した。

 日本では来年の大阪・関西万博で空飛ぶクルマがお披露目されるが、万博後の社会実装を考える上でパリの事例は大きな教訓となりそうだ。

3000億円超を調達

 前置きが長くなったが、今回からは機体を開発する有力な機体メーカーを順に紹介していく。まず紹介したいのは誰もが認める業界のフロントランナーである米ジョビー・アビエーションだ。この連載でも既に何回か登場しているが、2009年にシリコンバレーで設立され、当初は空飛ぶクルマとは全く関係のない事業を行っていたが、やがて航空機の電動化に取り組み始め、12年にNASA(米航空宇宙局)のLEAPtechプロジェクトに電動推進システムの共同開発者として参画した。

 その経験を通じて得た知見を生かし、eVTOLの機体開発に自ら着手し、19年に米ウーバーと開発パートナーシップ契約を締結、21年にはニューヨーク証券取引所への上場を果たした。ここまで累計での調達金額は3000億円を超えており、競合を大きく上回りダントツとなっている。

 現在開発中の量産機S4は、ティルトローター型の機体で、パイロット含め5人乗り、航続距離は160キロメートル、飛行速度は時速322キロメートルと優れた性能を有する。特筆すべきは飛行時に生じる音の大きさで、上空500メートルを飛んでいる時の騒音レベルは45デシベルと、地上からは飛んでいることが認識できないくらい静音性に優れた機体となっている。

 ジョビーについては語るべきことが多い。続いて解説したいのはそのビジネスモデルである。ジョビーは開発する機体を外部に販売せず、自社で運航する計画だ。既に米国では小型飛行機を用いた運送事業を行うための認証を取得している。ボーイングとユナイテッド航空も1934年に独占禁止法に基づき分割されるまで一つの会社だったように、航空機メーカーが自ら開発した機体を運航するのは珍しいことではないが、このビジネスモデルが21世紀に入って再登場するとは誰も想像していなかっただろう。

 ジョビーの機体は1回の充電で150キロメートル以上の距離を飛行できるが、ターゲットとしている市場は都市内でのエアタクシー事業だ。空飛ぶクルマ産業が世界的に盛り上がるきっかけとなったウーバーの空飛ぶクルマ事業を20年に買収し、同時に同社から出資も受け、新しい空の移動を実現すべく着実に準備を進めている。米国3大キャリアの一角であるデルタ航空からの出資も受けており、空港に降り立ったデルタ航空の乗客を、最寄りのダウンタウンまで数十キロメートルの距離をオンデマンドで輸送するシャトルサービスが初期の有力なビジネスとなってくるだろう。

 例えば、日本のビジネスマンが羽田から飛び立ち米国の空港に到着し、ホテルまで移動するためにウーバーのアプリを立ち上げたら、ジョビーが運航するエアタクシーが選択肢として提示される。空の移動は自動車よりも高価だが、地上の渋滞に巻き込まれることなく目的地まで到着でき、また同時に、空からの眺望を楽しむことができる。ジョビーが目指すのはそのような世界観だ。

まずNYとロスで運航へ

 ジョビーは米国ではまずニューヨークとロサンゼルスから運航サービスをスタートすることを発表している。同社のエアタクシー事業はいつごろから利用できるようになるのだろうか。空飛ぶクルマは航空機であるため商業運航を行うには、各国の航空当局より型式証明を取得しなければならない。そのため、機体開発と認証取得を両輪で回していく必要があるが、こ…

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週刊エコノミスト

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