経済・企業 中国
意外に底堅い中国景気 製造業支援が輸出を促進 谷村真
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海外から不動産不況や消費の弱さが盛んに指摘される中国経済だが、現地を訪れると強気の見方が広がっていた。
実質個人消費の伸びは欧米をしのぐ中国
中国の景気動向に対する海外勢の見方は厳しい。これは、不動産不況から抜け出せず、2024年第2四半期(4~6月)の成長率は、前期比年率換算で2.8%と減速しているだけではない。通例より半年以上も遅れて今年7月中旬にようやく開催された中国共産党の第20期中央委員会第3回総会(3中全会)や、7月末の中央政治局会議でも大規模な景気対策が示されなかったためだ。
筆者は6月中旬に北京と上海に出張し、関係者と意見交換したが、現地では中国の景気見通しについてより強気の論調が一般的で、海外の見方と対照的だった。政府統計を見る限り、景気指標はまだら模様であるが、24年上半期(1~6月)の実質GDP(国内総生産)成長率は、不動産市況が悪化する一方、通年の政府目標通りの5.0%を達成した。
筆者が中国を訪れるのは新型コロナウイルス禍後、初めてである。携帯のアプリで配車サービスを利用し、下町情緒の残る北京の繁華街である前門大街に向かう。迎えに来た車は電気自動車(EV)でドライバーは若者だった。前門大街は地方から北京に観光に来たとおぼしき国内旅行者であふれかえっており、外国人の姿はほとんどなかった。
レストランでは、テーブルに置いてあるメニューを見ながら、携帯アプリで注文から会計まで済ませるスタイルであった。上海の中心地、陸家嘴にあるショッピングモールでも、複数のフロアにわたりさまざまなスタイルの中華料理のレストランが軒を連ねており、いずれも現地人で盛況だった。筆者は現地での決済で現金はまったく使わず、DX(デジタルトランスフォーメーション)は日本よりも格段に進んでいる印象だった。
現金給付には消極的
さて、海外の中国経済への見方が厳しい最大の理由は、個人消費の低調にもかかわらず、政府が現金給付など需要サイドに働きかける大型景気刺激策に消極的な点だ。しかし、ある国際機関の現地事務所は、コロナ後の消費回復はむしろ中国が欧米を上回ると評価していた。確かに、コロナ前の19年と比較すると、23年時点で物価変動の影響を除いた実質個人消費の水準は、中国が20%増と米国の10%増、欧州連合(EU)の2%増を上回る(図1)。
また、製造業への政策支援の効果などにより、製造業が強い地域で消費の伸びが高い傾向も確認された。例えば、ハイテク製造業の成長が著しい江蘇省では、20年~24年上半期の実質消費支出(都市部、家計調査)の伸びが年平均5%、工業の実質付加価値額の伸びが8%とそれぞれ高い一方、北京や上海では前者が1%、後者が4%と対照的である。
ただ、中国ではコロナ後に個人消費の伸び率が過去の水準から減速したのもまた事実である(図1)。米国では現金給付などの結果、コロナ前後で個人消費の伸び率は大きく変化していないため、中国でも同様の景気対策を実施すれば、個人消費はもっと強かったはずと考えるのも無理はない。直接投資や証券投資を行う外国人投資家は、中国の内需の伸びに注目し、過去と同様の高成長を期待する傾向が強い。
消費と雇用は表裏一体である。24年上半期の都市部の新規雇用者数は、コロナ前の水準まで戻っていない。また、若年層の失業率は17%と高く、社会不安の要因となりうる。現地では一流大学を卒業するも、卒業生の3分の1は定職に就くことができていないと指摘されている。ただし、こうした若者も、親と同居して配車サービスのアルバイトなどで小遣いを稼ぐなど、生活が著しく困…
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週刊エコノミスト
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