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経済・企業 NISAの見直し術

“失われた30年”脱却への道――安倍・菅・岸田内閣の経済政策を検証する 橋本龍一郎

 アベノミクスが始まって10年余り。ようやく「失われた30年」脱却が視野に入りつつある。日本経済の現在地を見ると変化の芽は確実にあり、あとは適切な施策が推進できるかだ。

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 日本経済がバブル崩壊から立ち直りつつあるさなかに迎えた2008年のリーマン・ショックを受け、12年発足の第2次安倍内閣は「アベノミクス」を推し進めた。その後10年余りたち、「失われた30年」を過ごした日本にも、金融市場面では日経平均のバブル最高値更新・37年ぶりの為替円安、実体経済面では名目国内総生産(GDP)600兆円突破・消費者物価指数(CPI)上昇率の28カ月連続での2%超えといった、大きな変化の兆しが生まれつつある。

 まず、アベノミクスからの経済政策の流れを振り返ろう。当初は「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「投資を喚起する成長戦略」の三本の矢を掲げたが、15年から「希望を生み出す強い経済」「夢を紡ぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」という新たな三本の矢を掲げる第2ステージに移行し、雇用環境の改善や少子化対策、社会保障改革への傾斜を強めた。その後の菅内閣は「アベノミクスを継承する」としながらも、デジタル改革・グリーン社会の実現など、成長戦略を重視した政策を展開した。

 21年10月に発足した岸田内閣は賃上げと投資による所得・生産性向上や労働参加の拡大に注力した。岸田文雄首相の自民党総裁選不出馬に伴い、総裁選後の新内閣では新たな経済政策・成長戦略が推進されることになる。本稿では、安倍政権からの経済政策について、五つの観点から検証を行う。

①企業から家計へのトリクルダウン

 アベノミクスは、経済活性化メカニズムとして大企業が稼いだ富が国民全体に広く行き渡る「トリクルダウン効果」を標榜(ひょうぼう)していた。すなわち、日銀の異次元緩和(第一の矢)で円安を引き起こすことで、まずは大企業を中心とした輸出企業の収益を改善させ、時間と共にその恩恵が中小企業や非製造業、ひいては家計にまで浸透する効果を狙った。

 結果的にトリクルダウン効果はほぼ実現しなかった。10年以降の企業の収益環境やバランスシート(貸借対照表)を見ると、24年4〜6月期の経常利益は10年1〜3月期対比で3倍超、現預金や利益剰余金(内部留保)は2倍程度に増加した(図1)。一方、人件費の伸びはわずか10%。労働分配率(企業の生み出した付加価値のうち労働者に支払われる部分)も全規模で54.0%、大企業で37.6%と過去最低水準まで達している。

 こうしたもとで岸田政権は「物価上昇を上回る所得増へ」を旗印に、賃上げ税制の拡充や労務費の価格転嫁の支援といった政策を推進。人手不足時代の到来もあり、直近2年の春闘では政府、経済界、労働界の3者によるいわゆる「政労使協調」で高水準の賃上げが実現した。実質賃金伸び率は24年5月まで26カ月連続で前年比マイナスだったが、年度後半はプラスで推移するだろう(図2)。

 ただし施策の効果が真に試されるのは25年度の春闘だ。インフレは高水準で推移すると想定され、賃上げ率が4%を大きく下回れば、実質賃金成長率が再びマイナスに転化してしまう可能性がある。

②金融緩和の投資・所得面への影響

 リーマン・ショックで傷ついた日本経済において金融政策に求められた役割は、利下げや量的・質的金融緩和を通じた、設備投資や個人消費といった総需要の喚起だった。実際、大規模な金融緩和は企業の財務状況や家計の雇用環境を下支えする役割を果たし、企業倒産件数や失業率はいずれも09年をピークに減少、コロナ禍前の19年にはおよそ半減していた。

 ただし、大規模緩和によって設備投資や個人消費が大幅に増加したわけではない。GDP統計における実質民間最終消費支出は、09年1〜3月期から14年1〜3月期にかけて10%増加したが、2度の消費増税やコロナ禍、22年以降の物価高騰を受けて弱含んだ。24年4〜6月期のGDPも水準でみればコロナ禍前を下回り、14年4月の消費増税で大きく落ち込んだ頃と同程度だ。

 個人消費の伸びが限定的にとどまったのは、実質賃金が大きく伸びていないことに加え、金融緩和の長期化によって家計の金利収支が恒常的に悪化したことも影響しているだろう。1995年以降の金利収支の変化幅をみると、企業の金利収支が借入金利の大幅な低下と債務残高の圧縮を背景に大幅に改善した一方、借入額よりも預金額が圧倒的に大きな家計は95年対比金利収支が悪化、赤字(支払い超)に転化しており、家計消費を押し下げた可能性がある(図3)。

 また、企業の設備投資は個人消費と比較すると堅調に推移したが、全てが金融政策の効果かといわれると疑問符が付く。当社の分析によれば、企業の設備投資判断に影響を与える要因は主にグロ…

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