新政権は成長投資で日本の“膨らむ力”を取り戻せ “ゾンビ”と称して中小企業を倒産に追い込むな 会田卓司
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アベノミクスの金融緩和に、コロナ禍を経た積極財政で、構造的なデフレ不況を脱するチャンスが訪れた。だが、再度の緊縮に踏み出せば、日経平均株価は2万円台に戻るだろう。
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日本の経済政策を考える上で最も大事な基本は、経済財政運営の指針「骨太の方針」を読み込むことだ。政府は6月に閣議決定し、その方針実現への予算の編成が、各省庁が夏に行う概算要求から始まる。日銀法も、日銀の金融政策について「政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」とし、ここの「基本方針」とは骨太の方針が中心だ。骨太の方針を読み込まないと金融政策の動きも読めない。
2021年10月の岸田政権発足後も、骨太の方針では、大胆な金融政策を含むアベノミクスを堅持してきた。つまり元来、黒田東彦・前日銀総裁の後任人事は、アベノミクスを否定するものになるはずがなかった。23年4月に就任した植田和男総裁が、緩和政策を緩やかに調整してきたことは、骨太の方針が影響している。
そして25年度の予算編成に向けた骨太の方針では「デフレから完全に脱却し、成長型の経済を実現させる千載一遇の歴史的チャンスを迎えている」と日本経済の現状を認識している。岸田政権による3年間の骨太の方針を要約すると、「新しい資本主義」は以下のように、明確に定義される。
日本には多くの社会課題があり、投資の拡大や成長の障害になっている。社会課題の解決を、経済の成長エンジンにする。新自由主義のアプローチでは、社会課題は解決できなかった。社会課題は、市場の競争にまかせるだけでは過少投資となりやすい分野に存在する。社会課題の解決と持続的な経済成長の実現に向け、官民が連携して投資を行う。
要は、社会課題の解決に向け、政府も積極的に投資するということだ。
企業貯蓄率の異常なプラスが総需要を破壊
日本の構造的なデフレ不況の原因は、賃金や投資など、企業の支出不足にある。企業は本来、借り入れなどで資金を調達して事業を行うため、正常なマクロ経済では借り入れ部門で、貯蓄率はマイナスであるはずだ。だがバブル崩壊と金融危機を経て、企業は将来の収益拡大に向けた投資ではなく、リストラやコスト削減によって捻出した資金を借金の返済に回した。結果、企業貯蓄率は異常なプラスとなり、貯蓄超過が継続している(図1)。この貯蓄超過が総需要を破壊する力となり、構造的なデフレ不況の原因となってきた。
骨太の方針では、官民が連携して積極果敢な国内投資を行い、コストカット型経済とデフレから完全脱却し、成長型経済を実現するとしている。企業による投資拡大は、生産性向上につながり、実質賃金を上昇させ、成長・賃金・物価の好循環が起こる。
これまでは企業の支出不足がデフレ不況の原因となり、経済のパイである名目国内総生産(GDP)が拡大できない状態に陥ってきた。経済のパイが拡大しなければ、企業の競争はコスト削減によって競合他社より安く財やサービスを売り、競合他社からパイを奪うことが中心になる。もはや民間の力だ…
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週刊エコノミスト
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