円キャリートレードから円急騰&株急落を読み解く 山口範大
有料記事
安い通貨を借りて、高い通貨に投資するキャリートレードがどのように金融市場を動かすかを理解しよう。
>>特集「NISAの見直し術」はこちら
為替市場では、年初から円安・ドル高が進行し、7月上旬には一時、約37年ぶりの円安水準である1ドル=162円付近に達した。ただ、その後円安は一服、8月初めの市場の混乱時には、一時1ドル=141円まで円高となるなど、振れの大きい状況となった。
8月初めには世界的に株安も進行した。特に、日本株の下落は大きく、日経平均株価は一時、約9カ月ぶりの安値となった。
この間、為替の振れを大きくしたのが、「キャリートレード」の盛り上がりと、その解消の動きであると考えられている。
キャリートレードとは
一般にキャリートレードとは、日本円やスイス・フランなどの低金利通貨(調達通貨)を借り入れて、新興国通貨や、今日では米ドルなどの高金利通貨(運用通貨)で運用することで、収益を上げることをもくろむ取引である。ただ、その定義は曖昧で、単に調達通貨建てでファンディング(資金調達)が可能な投資家が外貨や外債に投資することを含める場合もある。キャリートレードのうち、調達通貨として円を用いた取引を「円キャリートレード」と呼ぶ。
キャリートレードにあたっては、ある程度の期間、資産をキャリー(買い持ち)する必要がある。取引期間にかけて、内外金利差が大きく、また金融市場のボラティリティー(変動率)が低いほど、キャリートレードの期待リターンは高くなる。そのため、円キャリートレードは市場が安定するリスクオン(選好)局面で活発化し、こうした局面で円安が進行する地合いを生む。
逆に、リスクオフ(回避)局面では、このポジション(売り買い残高)が解消され、円に買い戻し圧力がかかるため、為替相場は円高方向に動きやすくなる。
今回の局面では、7月まで金融市場で世界的に過度な楽観が広まっていたなか、円キャリートレードが盛り上がり、行き過ぎた円安が進行していた。ただ、その後、米国の経済指標が相次いで予想を下回ったことから、米景気後退(リセッション)懸念が高まり、さらに日銀によるタカ派(利上げに前向き)的な情報発信を受けて、日米金融政策の方向性の違いが鮮明化した。
これを受けて市場のボラティリティーが上昇、内外金利差は縮小し、たまっていた円キャリートレードのポジションが一気に解消され、円高が進行したと捉えられる。
容易でない実体の把握
ただし、キャリートレードを直接的に捕捉できる統計はなく、その動向を把握するのは容易ではない。
円キャリートレードの動向を反映するとされる代表的な指標に、米商品先物取引委員会(CFTC)が週次で公表するIMM非商業部門の円先物ポジションがある。これは、キャリートレードの主要プレーヤーである投機筋の円先物ポジションの内訳であり、円キャリートレードの動向を間接的に…
残り1241文字(全文2441文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める