米国経済の強さの深層には所得増と株高による資産効果がある 荒武秀至
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市場が懸念する「逆イールドの解消」が景気後退の起点となる経験則は今回は当てはまらない。経済統計で確認しよう。
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日本の経済規模は2023年にドイツに抜かれ世界第4位に転落したが、今後5年以内にインドにも抜かれて第5位となる恐れがある。他方、米国は世界経済の4分の1を占める世界最大の経済大国を維持している。その米国が景気後退に陥るとの見方が浮上しており、その場合は日本にとどまらず、世界経済と金融市場へ及ぼす影響も大きい。
サービス業がけん引
米国経済は景気後退に陥るのだろうか。経済統計を見る限り、まだ景気後退ではないが、減速していることは確かで、このまま放置すると景気後退入りするだろう。
市場が懸念しているのは、逆イールドの解消が景気後退の起点となる経験則である(図1)。現在は政策金利であるフェデラルファンドレート(FF金利)が22年の大幅利上げを経て、10年国債利回りを上回る逆イールド(短期金利が長期金利を上回る状態)になっている。今後は9月の利下げを皮切りに年内2~3回、25年も4回程度の利下げが予想され、逆イールドが解消されるだろう。ということは、これから景気後退入りなのか。
しかしよく見ると、逆イールド解消が景気後退を招いたわけではないことが分かる。過去はFF金利を高水準に維持したため景気後退に陥り、慌てて大幅利下げをした結果、景気後退と逆イールド解消が重なったのだ。つまり重要なのは、利下げが後手に回り、過去と同じパターンをたどるか、それとも今回は9月からの利下げが間に合い、景気失速を回避できるかの見極めが重要だ。
そこで注目すべきは、非製造業の強さと株高による資産効果である。まず企業の景況感を表すISMをみると、高金利に耐えられず製造業は22年11月から中立50を割り込み、実質的には景気後退が続いている(図2)。だが、非製造業は減速しながらも拡大を続けている。米国経済に占める割合(24年第2四半期、米商務省)は、民間サービス業72%に対し製造業は10%しかないので、製造業が失速してもサービス業が米景気をけん引している。
そして、サービス業が底堅い背景には、株高による資産効果がある。00年ITバブル崩壊や08年金融危機(リーマン・ショック)に伴う景気後退では、製造業の失速に加え、株価急落による逆資産効果でサービス消費が冷え込み非製造業も失速した。だが今回は、株高に支えられサービス消費が活発で、非製造業が拡大を続けている点が過去とは異なる。資金循環勘定によると、家計の株式含み益は20年から24年第1四半期に累計11兆ドル(約1600兆円)に達し、家計の年間名目所得23兆ドル(23年)の約半分を株式保有だけで稼いだ計算だ。
投資家は人に先んじて動くことで利益を追求する。過去の景気後退での学習効果から、今回も大幅利上げが景…
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週刊エコノミスト
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