世界経済はバブルの最終局面へ “実体経済”に投資せよ 澤上篤人
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長期運用での資産形成にとって素晴らしい制度の新NISAだが、始まったタイミングが最悪だ。今はバブル最終局面にあり、大恐慌の再来も起こり得る。その理由は三つある。
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澤上篤人(さわかみ・あつと)さわかみホールディングス代表取締役 1947年3月生まれ。71~74年スイス・キャピタル・インターナショナルにてアナリスト兼ファンドアドバイザー。80~96年ピクテ・ジャパン代表。96年にさわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立し、99年「さわかみファンド」を設定。日本の長期運用のパイオニアとして活動中。
長期投資による資産運用は資産形成に非常に重要で、新NISA(少額投資非課税制度)は素晴らしい制度だ。しかし私は運用歴54年で、長く市場を見てきた経験から、「今年1月」という始まったタイミングは最悪と捉えている。なぜなら今は、歴史的に例をみない凄(すさ)まじいバブルの最終局面に近づいているからだ。株などを安く買って利益を得られなければ、税優遇の意味がない。
過剰流動性で張りボテ
理由は大きく分けて三つだ。まず一つ目を背景から理解したい。発端は1973年10月からの石油危機。戦後、1バレル=3ドルだった石油価格が2度のショックで30ドルを超え、世界中の富が産油国に吸い上げられ、経済がめちゃくちゃになった。非産油国は、自国の経済を立て直そうと、財政・金融政策でマネーを大量投入した。
その後、米国が景気回復を宣言したのは92年8月。つまり19年間も量的緩和を続けた。経済活動に必要な量を超えて通貨が流通する「過剰流動性」の始まりだ。ただし当時は「インフレに直結するから危険だ」と訴える経済専門家もおり、早くも94年には、米国政府は金融引き締めを始めた。ところが96年ごろから、2000年1月1日にコンピューターが誤作動するのではとの「2000年問題」が浮上する。そこで予防的にマネーを大量供給した。また金融緩和に戻ってしまったわけだ。
無事に2000年問題をクリアし、同年2月からは「本気で引き締めよう」となって起きたのがITバブルの崩壊だ。株価は大幅下落したが、それでも金融は引き締めるべしとされていたところへ、01年9月11日に米同時多発テロが発生。米国中心に各国はまたマネーの大量供給に走った。以降はもう、誰も「過剰流動性は危険だ」と言わなくなってしまった。
その後も、08年のリーマン・ショック、20年春には新型コロナウイルス感染のまん延ときて、その都度、景気回復のためとしてマネーの大量供給が続いてきた。そういった過剰流動性下では、マネーが大量に流れ込む株式市場にとっては当然プラスに受け止められる。
バブル最終局面の二つ目の理由は、80年代に登場した「年金マネー」だ。膨れ上がる一途の年金マネーが株式や債券市場にどっと流れ込み、40年越しという空前の右肩上がり相場を築き上げた。そして三つ目が、「マネタリズム」だ。金利をゼロにして資金を大量に供給しさえすれば、経済は成長するという理論だ。
これら三つで世界の金融市場は大成長してきたが、限界に来ている。どこも債務が巨額に積み上がる一方でインフレが起き、金利も上昇という状況となった。マネー資本主義による張りボテの世界経済にインフレと金利上昇というやいばが突き刺さってきた状態で、いつプシュッとはじけるか分からない。
意外と見過ごされているのが、70年代からずっとマネーの供給過剰となってきた中でなぜ、ここ2~3年で突然急激なインフレが始まったのかだ。ここが一番大事だ。
それは世界経済のグローバル化が過剰流動性の影響を吸収することで、インフレが防がれていたからだ。グローバル化で先進国の消費者は安い製品を得てきた。裏には、低賃金労働がある。新興国や途上国にも、工場や農場の建設当初は、一時まとまったお金…
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週刊エコノミスト
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