教養・歴史 書評

国産ワイン産業の成長と課題を提示 データに基づく経営戦略構築が急務 評者・平山賢一

『データで広がる日本ワインの世界 ワインエコノミクス入門』

著者 原田喜美枝(中央大学商学部教授) 日本評論社 2640円

 はらだ・きみえ
 日本ソムリエ協会ワインエキスパート。大阪大学経済学部卒業後、東京大学大学院経済学研究科で博士号(経済学)を取得。財務省関税・外国為替等審議会委員のほか日本投資者保護基金理事なども務める。

 ワインエコノミクスは、ワイン産業を経済面からアプローチする研究分野ではあるが、堅苦しく考える必要はない。ワイン好きにとっては、本書を通して各種データを整理できるだけに、ワインをたしなむ深みが増してくる。お酒全般に興味がない読者でも、食卓に届く食材に置き換えて読んでいくと、わが国の食品産業を生産や輸入、そして税金といった角度から多面的に捉えていくことの面白さを感じるはずだ。これまで取り上げられるケースがなかった切り口だけに、大変ユニークな内容になっている。

 まず、日本では、ビールや清酒の酒類販売(消費)数量が減少しているのに対して、ワインは減っていないとのデータが示されている。高齢化や健康意識の高まりから、総じてアルコール消費には向かい風が吹いているものの、ワインの場合は、一定程度の地位が築かれつつあるといえよう。また、これまでワイン産地としての位置づけが高くなかった日本だが、最近は珠玉のワインが増えているのも事実である。安価な国産ワインもスーパーの棚に陳列されているが、酒類専門店で高額で販売される逸品も増えているからだ。

 そのため、新規参入者が小規模ワイナリーを経営し始めるケースも増えているという。温暖化の影響から、冷涼とされてきた北海道や高地でのワインづくりも注目されているとのこと。海外からの輸入ワインにかかる運送費もばかにならなくなっているだけに、国内の生産者にがんばってもらいたいものだが、その実態は厳しいようだ。経営コストの高さという課題を抱え、新規参入者の経営状況は必ずしも良くないのである。著者は、実質実効為替レートでの円安が進み、外国産設備のコストが上昇している点や、小規模であるがゆえに固定費が平均総費用を高めている点を指摘している。ワインエコノミクスとしての面目躍如たる切り口であろう。

 そこで求められるのが、ワインづくりの情熱に加え、データに基づく経営分析と戦略の構築に違いない。生産コストの圧縮のためには、ワイン製造の委託醸造(カスタムクラッシュ)や共同醸造が、資金調達コストの抑制のためには、クラウドファンディングなどが利用され始めていることが紹介されている。自分の味覚・嗜好(しこう)に合った生産者に、皆で資金を提供し、その成果を生産者と共に享受するわけだ。ワイン好きにとっては、「推し活」の一環として小規模ワイナリーを応援するのも一興かもしれない。

(平山賢一・東京海上アセットマネジメントチーフストラテジスト)


週刊エコノミスト2024年10月8日号掲載

『データで広がる日本ワインの世界 ワインエコノミクス入門』 評者・平山賢一

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