経済・企業 空飛ぶクルマ最前線
❺米航空大手が出資するアーチャー 航続距離が長いベータ 岩本学
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先頭集団の米アーチャー・アビエーションは既製品の調達でコストや開発期間を圧縮。米ベータ・テクノロジーズは貨物輸送も計画する。
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前回に続き固定翼付きのeVTOL(垂直離着陸)機を開発する海外の新興企業を紹介したい。今回最初に取り上げるのはジョビー・アビエーションと並び業界のフロントランナーと位置付けられる米アーチャー・アビエーションだ。連続起業家のアダム・ゴールドステイン氏を中心に2018年にシリコンバレーで設立され、ジョビー、エアバス、ボーイングといった他の機体メーカーや電気自動車(EV)メーカーのテスラなどから有力なエンジニアを引き抜き、非常に速いスピードで機体開発を進めていった。米ユナイテッド航空と欧ステランティスから出資を受け、ここまでの累計での調達額は約2100億円となっている。この金額はeVTOL機を開発するベンチャー企業としては、ジョビーとリリウムに次ぐ世界3位だ。
5人乗りの「ミッドナイト」
型式証明取得に向けて開発中の「Midnight(ミッドナイト)」は5人乗りのティルトローター機で、航続距離は161キロメートル、平均して40~80キロメートルを往復で飛行する想定であり、都市内のエアタクシー事業をメインターゲットとしている。運航については、ユナイテッド航空との結びつきが強く、同社からは300機の発注を受け、既に約15億円の前払い金も受領している。商業化に向けたスケジュールはジョビーとほぼ同様で、25年からの運航開始を目指す。ジョビーよりも認証プロセスをスタートしたのが遅いため、スケジュール通りに進むかは不透明だが、23年に米国航空局の元長官を最高安全責任者として迎え入れ、万全の体制を築いている。また、ニューヨーク、シカゴ、サンフランシスコ、ロサンゼルスなどの都市での具体的な運航ルート案も公表しており、事業化に向けて着実に歩みを進めている。なお、アーチャーもジョビーと同様、米国において航空輸送事業を自ら営むことが可能な認証を取得しており、アーチャー・エアという子会社も設立している。
量産に向けた工場設立も進む。出資者であるステランティスと密に連携し、米ジョージア州に年間最大650機の生産が可能な工場の建設を行っている。またサプライチェーンの構築も既に完了しており、米ハネウェルや仏サフランなど航空宇宙産業の大手企業が並ぶ。モーターやバッテリーを自社開発するなど自前主義のジョビーと異なり、積極的に外部のサプライヤーから既製品を調達することで、開発に必要な資金と時間を抑えようとしている点にアーチャーの戦略が表れている。日本からは積水化学工業傘下の積水エアロスペースが胴体の一部の製造を担っているようだが、残念ながらそれ以外には運航・製造ともに日系企業との連携は公表されていない。
続いて紹介するのは、航空機産業が集積する米バーモント州にて17年に設立されたベータ・テクノロジーズだ。初めて名前を聞く人も多いかもしれないが、世界的には有望な機体メーカーの一社に位置づけられる。まだ上場はしていないが、金融大手の米フィデリティやアマゾンの環境ファンドなどからの投資とアメリカ輸出入銀行からの融資を合わせて合計約1600億円を調達している。開発中の機体「ALIA(アリア)」は、渡り鳥から着想を得た美しい曲線を持つリフト&クルーズタイプのeVTOL機で、巡航時の飛行効率を向上させるため15メートルと長い翼幅を有し、自社独自開発のモーターと組み合わせて、他社を大きく上回る500キロメートルの航続距離を実現している。
ターゲットとする最初の市場は、物流、防衛、医療用途となっており、エアタクシー事業を中心に当初の市場展開を目指す他の機体メーカーと大きく異なる戦略を持つ。物流用途では、米国の大手貨物運送会社であるユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)と連携し、600キロを超える積載量を有するベータの機体を用いて中小企業やヘルスケア事業者向けの貨物輸送サービスを展開する計画だ。米国ではラストワンマイルのドローン配送が米テキサス州ダラスを中心に本格稼働し始めているが、eVTOL機の登場により空の輸送ネットワークがどのように進化するか注目だ。
小型の電動航空機も開発
ここまでベータを空飛ぶクルマメーカーとして紹介して…
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週刊エコノミスト
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