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政策金利が上がっても住宅ローンの変動金利は低水準のまま 池上秀司

マイホーム購入には住宅ローン審査という壁がそびえる(2024年1月、東京都内の新築マンションのモデルルームで)
マイホーム購入には住宅ローン審査という壁がそびえる(2024年1月、東京都内の新築マンションのモデルルームで)

 若年層を中心に住宅ローン金利上昇への不安が高まっている。しかし急激な金利変動は想定しにくい。

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 日銀のマイナス金利解除や、利上げのニュースが報じられるたびに、変動金利型住宅ローンに関して「毎月のローン返済額が増えるのでは?」といった相談が筆者のもとに寄せられている。変動金利の不安をあおるような情報をうのみにする人も多いようだ。しかし、変動金利型が引き続き低い状況は今後も変わらない。

 まず、住宅ローンの金利はどのように決まるのか知っておきたい。金利の変わらない固定金利と半年ごとに金利を見直す変動金利に大別され、それぞれ参考としている経済指標が異なる。

 固定金利は「長期金利」の影響を強く受ける。長期金利は2024年1月から上昇傾向にあり、固定金利も上昇してきた。日銀の利上げ決定(7月末)後、8月になって長期金利は低下し、1%を下回った。9月実行分の固定金利が軒並み下がったのはそのためだ。

政策金利に連動

 一方、変動金利は日銀の金融政策の影響を強く受ける。06年7月、07年2月に、現在の政策金利に当たる「無担保コールレート・オーバーナイト物」を0.25%ずつ上げたのに伴い、変動金利の店頭金利は2.875%になった。なお、店頭金利とは金利の「定価」に当たる。店頭金利から一定を引き下げ、実際の返済に適用する金利が「適用金利」だ(図1)。08年にはリーマン・ショックの影響で、同10、12月に0.2%ずつ下げ2.475%に低下した。

 日銀が08年後半から大規模な金融緩和政策を実施したため、変動金利は長期間にわたって2.475%で据え置かれたままだったが、24年3月の金融政策決定会合でマイナス金利政策を廃止。7月には政策金利を「0.25%程度」に引き上げることを決めた。その影響で、9月2日に都市銀行は短期プライムレートを0.15%上げ、1.625%にした。都市銀行の変動金利の店頭金利は「短期プライムレート+1%」というのが通例のため、10月に変動金利は0.15%の上昇が見込まれる。

 こうした金利環境を踏まえて、住宅購入を検討している人を中心に変動金利への警戒感も出ているようだ。確かに、バブル期には変動金利が8%台になったこともある。しかし、当時は変動金利より固定金利の方が金利が低く、現在のような変動金利主体の資金計画は主流ではなかった。当時の変動金利は長期金利(長期プライムレート)を指標としていたこともあり、現在の住宅ローンの仕組みは、バブル期とは全く違うことを頭に入れてほしい。

 とはいえ、急激に金利が上がることはないのか。確かに「ゼロ」に近かった金利が少しでも上がれば大きく報じられることは理解できるが、リスクは「有無」ではなく「大小」で判断すべきだ。

 まず変動金利の土台になっているのは政策金利(無担保コールレート・オーバーナイト物の誘導値)だが、日銀法は「金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」と規定している。固定金利は変動金利に先駆けて上昇する傾向があり、先行して変化する固定金利が9月に下がったため、変動金利は10月に0.15%上昇するとはいえ、今後も急激な利上げは回避すると考える方が常識的な見解ではないか。

 一方、低金利が続く中であまり認識されていなかったようだが、変動金利型住宅ローンには「5年ルール」や「125%ルール」という激変緩和措置がある。5年ルールは、適用金利が上がっても5年間は月々の返済額が維持される。つまり、金利が何%になっても、5年間は返済額が一定となる仕組みだ。125%ルールは、5年間維持した後に返済額を再計算する場合、適用金利がどれだけ高くなっても上限を1.25倍に抑える。これはバブル期の金利上昇が背景にある制度なので、今現在強く意識する必要は…

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週刊エコノミスト

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