資源・エネルギー 毎日新聞「経済プレミア」より

橘川武郎氏「石破政権に私だから言える」原発政策二つの誤り 川口雅浩

自然エネルギー財団のセミナーで発言する国際大学学長の橘川武郎氏=2024年10月3日、同財団の公開動画から
自然エネルギー財団のセミナーで発言する国際大学学長の橘川武郎氏=2024年10月3日、同財団の公開動画から

 「日本のエネルギー政策の進め方で、おかしい部分が二つあると思う。それを正すということで、この機会が来ることを待ってました。今日は私だから言えることを言いたいと思っています」

 こう語るのは東京大学・一橋大学名誉教授で国際大学学長の橘川武郎氏(日本経営史・エネルギー産業論)だ。橘川氏は2024年10月3日、自然エネルギー財団主催の「エネルギー基本計画の論点」と題したセミナーで、石破茂政権に厳しい注文をつけた。橘川氏が説く「今すぐに正すべき二つの問題」とは何なのか。

 政府はエネルギー政策の指針となるエネルギー基本計画を24年度内に見直すことになっている。東京電力の原発事故後、歴代の自民党政権は「原発の新増設とリプレース(建て替え)は想定していない」として、「脱・原発依存」を掲げてきた。

 ところが、岸田文雄政権は次世代型原発の新増設の検討や、リプレースの具体化、それまで最長60年としてきた既存原発の運転期間の延長を認めた。今回のエネルギー基本計画の改定は、40年度の電源構成の目標を示す方針で、原発の位置づけが最大の焦点となる。10月27日投開票の衆議院選挙でも与野党の論戦が期待される。

「圧倒的多数は原発推進派」

 まず、橘川氏は「エネルギー政策については多様な意見がある。その意見を反映して議論すべきだが、エネルギー基本計画を議論する基本政策分科会の委員の圧倒的多数は推進派ばかりだ」と苦言を呈した。

 基本政策分科会とは、政府の総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)の分科会で、エネルギー基本計画の見直しを議論する中心的な役割を果たしている。東京海上日動火災保険相談役の隅修三氏を分科会長に、学者、経営者など16人が委員を務める。

 分科会では「福島のような原発事故が二度とあってはならないと強く思う国民は多数を占めると思う。もし原発の新増設を国策として国民負担で進めるなら、それを争点とした国民的な議論や民意を問うプロセスを入れてほしい」(24年10月8日、村上千里・日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会環境委員会副委員長)など、原発に慎重な意見もあるが、少数派だ。

 大半を占めるのは「AI(人工知能)やDX(デジタルトランスフォーメーション)は不可欠で、今まで以上に安定的な電力は必要だ。原子力が絶対的に不可欠であることは確実だと感じる」(24年9月12日、伊藤麻美・日本電鍍工業代表取締役)など、原発推進の論調だ。

 「原子力への世界の注目は増している。データセンターや半導体工場を考えると安定した電源が必要になる。原子力は莫大(ばくだい)な資金が必要だ。英国はRAB(Regulated Asset Base、規制資産ベース)モデルという仕組みを入れている。日本でも着実に原子力に投資を行う事業環境を改善する枠組みが不可欠だ」(24年7月8日、寺沢達也・日本エネルギー経済研究所理事長)など、政府が原発を支援すべきだという意見が強い。

 橘川氏は、内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」が24年6月5日に廃止となったことについて「このタスクフォースが基本政策分科会と違う意見を言うのは社会的に非常に意味があった」「基本政策分科会の偏った構成をチェックするための組織は非常に重要だった」と述べ、政府の判断に疑問を呈した。

 橘川氏は「日…

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