経済・企業

米モデルナCEO、コロナとインフルエンザの混合ワクチンを来年、欧米で投入へ--日本では26年以降期待、売り上げは再び成長軌道へ

ステファン・バンセル・モデルナCEO
ステファン・バンセル・モデルナCEO

 米製薬会社モデルナのステファン・バンセルCEOが17日来日し、週刊エコノミストの単独取材に応じた。同社は、メッセンジャーRNA(mRNA)技術を用いた新型コロナウイルスワクチンの開発・製造で知られる。同氏は日本の事業戦略を検討するため、定期的に日本を訪れており、今回の来日もその一環。同日、神奈川県藤沢市の「湘南ヘルスイノベーションパーク」で開催したパネルディスカッションでは、同施設内に2027年までにワクチンの開発・製造拠点を開設する意向を表明している。編集部では今回、バンセルCEOに業績、株価や今後の製品投入の予定について聞いた。(聞き手=稲留正英・編集部)

来年末までに4~5製品が承認

―― 9月12日開催のR&Dイベントでは、今期と来期の売上高見通しを下方修正し、株価も急落した。見通しを下げた理由は。

■新型コロナは「パンデミック(世界的な大流行)」から「エンデミック(局所的な流行)」に移行した。前回の流行まで過去100年間パンデミックはなく、それゆえに、今後を正しく予測する方法も確立していない。だから、10%程度の売上高の下方修正はそれほど悪いものではないと考えている。

 しかし、再び、売り上げを成長させるため、今後、新製品を投入していく。今年は、欧米でRSウイルス(気管支炎や肺炎などを起こす呼吸器系のウイルスで乳児や高齢者の重症化リスクが高い)のワクチンの製造・販売承認を得たほか、R&Dイベントでは、さらに年内に三つの新製品をFDA(米食品医薬品局)に申請すると発表した。来年の末までには、計4~5の製品が承認されることになり、売り上げは再び成長軌道に乗る。

RSウイルスワクチンの有効性と安全性に自信

―― モデルナのRSウイルスワクチンは他社に比べて、有効性が薄いとの報道もある。

■第3相の臨床試験(有効性と安全性を確認する最終段階の試験)をした時期が違うので、他社のものとそのまま比較するのはフェアではない。公開された情報によると他社の第3相試験は、新型コロナのオミクロン株の感染が拡大した2022年12月から23年1月の時期に行われた。この時期は米国と欧州では再びロックダウンが実施され、人々は家でマスクをして過ごしていたため、RSウイルスの感染はなかった。一方、当社のRSウイルスワクチンの第3相試験はその1年後で、この時期は、米国史上、最もRSウイルスの感染が拡大した時期だった。

 米疾病予防管理センター(CDC)と米政府は来年6月に、24年の秋から25年初めの冬の時期におけるRSウイルスワクチンの有効性と安全性のデータを公表する。私はモデルナのRSウイルスワクチンの有効性と安全性は優れていると確信しており、結果について極めて楽観的に考えている。さらに、当社のワクチンは、注射器のシリンジに封入されており、箱を開ければ、すぐに注射できる。医療従事者の手間を大きく省くことができる。

混合ワクチンの承認ならコロナの接種率向上へ

―― 25年以降に投入される主な製品はどのようなものか。

■一つは次世代のコロナワクチンだ。これは60歳以上の人に対して、より有効性が高く、効能も長持ちする。これによって、高齢者の入院率を下げることができる。また、保存は現行ワクチンの冷凍に対し、摂氏2~8度での冷蔵で良くなるため、医療従事者にとっても取り扱いが容易になる。

 もう一つは、インフルエンザとコロナの混合ワクチンだ。一回の接種で、両方のウイルスに対応できる。第3相試験では、インフルエンザとコロナの双方で、それぞれ現時点で最良のワクチンよりも良好な結果が得られている。この混合ワクチンについては、各国の政府や医療従事者はかなり期待している。なぜなら、コロナについては、ワクチンの接種率がインフルエンザより低いためだ。混合ワクチンならコロナの接種率が上がると、多くの政府が考えている。その結果、コロナによる入院患者も減り、長引くコロナの後遺症(Long COVID)に悩まされる人も少なくなる。この混合ワクチンについては、当社ほど良好な第3相試験のデータが出ている製薬会社はほかにはない。

 両ワクチンとも、年内に欧米の当局に申請し、来年にも承認を得られると見ている。日本では、来年に厚生労働省に申請し、早ければ、26年にも承認を得られることを期待している。

(終わり)

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