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台湾人客はローカル線の“救世主” 冬の沿線観光に熱視線 金子長武
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乗客減が続き、コロナ禍もあって厳しい経営に直面する地方鉄道の“救世主”は訪日外国人、とりわけ台湾人だ。
雪景色は観光資源
山形新幹線が停車する山形県南陽市の赤湯駅に3月中旬に降り立って、山形鉄道フラワー長井線のプラットホームへ向かった。停車していたポツンと1両だけのディーゼル車に乗り込むと、乗客は筆者以外に4人だけだった。
ところが、発車間際に20人ほどのグループと制服を着た添乗員が乗ってきた。マイクを手にした添乗員が外国語で何やら説明すると、団体客は大いに盛り上がった。
聞けば、台湾から来た観光客という。フラワー長井線の車窓からは春から秋にかけて、桜をはじめとした花が咲き乱れる光景が見られるが、なぜまだ肌寒い3月に訪れたのか。台湾から来た40代の女性は「台湾では雪がほとんど降らないので、雪景色を見たくて来た。日本の鉄道は景色が素晴らしく、台湾で人気だ」と日本語で話した。
フラワー長井線は赤湯駅─荒砥駅(同県白鷹町)間の30・5キロを結ぶ。国鉄長井線だった1980年代、乗客数が少なかったことから廃止対象となり、88年に第三セクターの山形鉄道が経営を引き継いだ。山形県の資料によると、2022年度の輸送人員数は約42万人。新型コロナウイルスの影響がなかった19年度比21%減、12年度比41%減と衰退著しい。
ただし、台湾人観光客は増えている。同社によれば、23年度に乗車した台湾人観光数は4850人だった。定期券乗客を除いた定期外輸送人員数約12万2000人の4%を占める。昨年には、沿線の長井市など2市3町が設立した観光地域づくり法人「やまがたアルカディア観光局」と組んで、台湾でのプロモーションに力を入れたという。
山形鉄道の清野涼子営業主任は「コロナ禍前のインバウンド(訪日客)は台湾とシンガポールが中心だったが、コロナ禍の後は東北各県と台湾の間にチャーター便が多く設定されたことなどから、台湾人客が増えた」と説明した。
きっかけは雪遊びイベント
飯豊町観光協会の二瓶裕基事務局長によれば、台湾人客が増えたきっかけは16年前、同県飯豊町の観光ユリ園の駐車場で雪遊びをするイベントだった。
「台湾の旅行会社と付き合いがある営業マンを通じて900人もの台湾人客が来訪した。それ以降、現地の旅行会社にプロモーションを続けている。飯豊町観光協会の前会長が山形鉄道の取締役だったこともあり、フラワー長井線もアピールするようになった」(二瓶事務局長)
もちろん山形県に限らず、日本を旅行する台湾人が大きく増えたことの余波もある。日本政府観光局のデータによれば、コロナ禍前、インバウンド客数の国・地域別上位は1位中国、2位韓国、3位台湾だったが、昨年は台湾が2位に浮上し、約420万人。約243万人の中国を大きく上回った(図)。
千葉県銚子市の銚子電気鉄道も台湾人観光客の誘致に力を入れている。JR…
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週刊エコノミスト
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