⑯「審美」というマーケット 林裕之
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「歯は黄色いより白いほうがいい」「歯並びの乱れはかっこ悪い」と言う歯科医は要注意です。
>>連載〈歯科技工士だから知っている「本当の歯」の話〉はこちら
歯の色は白いほうがいい、歯並びが乱れていないほうが良い──。これらは医学的根拠がない間違った認識であることは前号までに解説しました。問題なのは歯科医自身がこの間違いを流布していることです。テレビに出て歯は黄色いより白いほうがいい、歯並びの乱れはかっこ悪いとまで言っている歯科医がいるほどです。医学に程遠い理屈で一般の人のコンプレックスを煽(あお)るデンタルハラスメントです。
また、矯正歯科医や審美歯科を標榜(ひょうぼう)する歯科医は「アメリカでは歯列矯正して良い歯並びにするのは当たり前」「八重歯は欧米ではドラキュラの歯として嫌われる」などと口にします。これも大間違いで、そんなことはありません。
先日アメリカに帰化して45年になる友人に実情を尋ねたところ、「富裕層には多いかもしれないが、歯列矯正は当たり前ではない。歯並びの乱れを気にしない人もたくさんいる」と言います。また「他人の歯をドラキュラの歯などと言ったら即、訴えられる。テレビでそんなことを言うなんて信じられない」とのことでした。
歯並びだけでなく、容姿や外見を揶揄(やゆ)したり、差別することは絶対のタブーだそうです。そもそも、なぜ欧米を持ち出すのでしょう? そうした歯科医の言い分を聞いていると、自分自身が欧米コンプレックスを持っているようです。それも白人に対してで、黒人やアジア人を例にすることはありません。
歯科医の過当競争
歯科には医療法で看板などに標榜してよい診療科目が定められています。「歯科」「矯正歯科」「小児歯科」「口腔(こうくう)外科」の四つです。審美歯科は標榜科目ではないのですが、見た目をキレイにする歯科として浸透しています。
審美を辞書で引くと「自然や美術などのもつ本当の美しさを的確に見極めること。また、美の本質・現象を研究すること」とあります。この概念は歯に当てはまりません。歯は自然や美術のように美の対象ではありません。美醜は人それぞれが持つ主観です。時代や地域によっても異なります。美しい歯と醜い歯の歯科的基準は存在しません。
白い歯にしたいとか歯並びを整えたいという美容的要望があるのは事実です。歯に対するコンプレックスが解消される効果があることも理解…
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週刊エコノミスト
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