教養・歴史 歴史に学ぶ世界経済

格差拡大の3大要因――保護主義・債務膨張・技術革新 山川哲史

 経済効率性のみを追求した経済成長は、所得分配における極端なゆがみを含む弊害が顕現化するにつれ、大きな転換を求められている。

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 世界経済における所得格差は一段と深刻化の様相を呈している。通常、景気拡大に伴い縮小するさまざまな格差、例えば一国内における人種、ジェンダーなどさまざまな要因に起因する格差、あるいは先進国・新興国間の格差は、むしろ拡大傾向をたどっている。所得格差の拡大は、従来はジニ係数などの統計量により確認されてきたが、近年では「エレファントカーブ(象の曲線)」と呼ばれる図1が注目を集めている。

 同図は、世界的にみた所得区分ごとに実質所得の平均成長率を、下位(新興国・貧困層)から上位(先進国・富裕層)に向け、示している。その形状が、先進国における中間層が、新興国および先進国・富裕層の繁栄に後塵(こうじん)を拝した結果、成長率が中間層で下方屈折するなど、「象の鼻」に類似しているため、上記のように呼称されている。B.ミラノビッチ氏は、従来と比較すると富裕層における所得の成長率は幾分低下しているものの、中間層における所得停滞が突出している点に大きな変化はないと指摘している(『大不平等―エレファントカーブが予測する未来』)。

 所得格差の歴史的な経緯を踏まえつつ、その動向に重要な影響を及ぼす要因として、本稿では特に保護主義、過剰債務および技術革新の3点につき検討したい。

 第一に、保護主義の台頭だ。一般的な比較優位論では、自由貿易を前提に各国が自身の最も優位な生産分野に特化する結果、世界的により高い経済厚生(所得水準)を達成することが可能とされる。従って経済効率性の観点からは、グローバリゼーションは正当化されてしかるべきだが、一方でD.ロドリック氏のように、グローバリゼーションが加速度的に進行するなかで、一国内、ないしは多国間での所得格差は急速に拡大したとの指摘も多い(『グローバリゼーション・パラドクス』)。

経済厚生は高まるが…

 中長期的なグローバリゼーションの動向を、「貿易開放度」(〈輸出+輸入〉÷世界GDP)により確認してみよう(図2)。貿易開放度は、①第一・二次世界大戦時における保護主義の台頭とともに大幅に低下、1913年(38.1%)から底を打った46年(7.5%)まで30ポイント強の下落を示した。

 しかし、②戦後は再び上昇に転じ、冷戦終結と同時にスタートした「超グローバリゼーション」の過程では上昇ペースに一段と弾みがついた結果、2000年代後半には50%近傍の水準に達した。ただしその後は、③行き過ぎたグローバリゼーションに対する反動もあって同指標の上昇には歯止めがかかっており、保護主義の再燃とともに、先行き一段の低下を予想する向きも多い。

 実際、日本企業を含む世界の主要企業も、グローバルサプライチェーンがはらむ脆弱(ぜいじゃく)性を克服すべく、賃金を含む生産コスト面での優位性を背景に新興国へと生産拠点を移転するオフショアリングから、国内生産回帰によるオンショアリングへと移行しつつある。

 ただし、グローバリゼーショ…

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