“分断”で始まったアメリカ建国史 現在の対立を超える契機はどこに 上村剛
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米国の国家の始まりを意味する「米国革命」。当時の議論を詳細に見ると、分断に揺れる現代の政治への教訓が見えてくる。
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「分断」というのが最近の米国政治のキーワードであるようだ。今年11月の大統領選に向けて、共和党と民主党の争いが激しさを増しているように映る。双方を支持する有権者の、自分とは異なる政党への憎悪も増しているようにみえる。さらには2021年の連邦議会議事堂の襲撃事件や、トランプ大統領候補の銃撃事件のように、事は決して穏やかではない。
政治学の専門用語では、これは「分極化」(polarization)と呼ばれる事態であり、研究が最も発展しているトピックの一つである。現代米国の政治的分極化を専門とする小椋郁馬氏(一橋大学専任講師)によれば、分極化はイデオロギー的なものと、感情的なものとの2種類に分けられるという。近年の米国政治で注目されているのは、後者の感情的分極化だ。
つまり、政治的な考え方(イデオロギー)の違いで分かれているというより、もはや自分とは異なる政党に属する人間であるだけで、「あいつは敵だから嫌いだ!」という嫌悪の感情を募らせるようになっている。その結果、ますます有権者間の溝が深まるという問題が、現在進行形で生じている。これは社会的な不安定を誘いかねない、由々しき問題である。
そうした米国の現状をみるにつけ、よく上がる声の一つが、米国はもはや堕落して、建国の精神を失ってしまったというものである。建国の父たちは一致団結して英国から独立を勝ち取ったのだから、あのころの精神を思い出せ、という主張もある。しかし、それは妥当な歴史理解なのだろうか。
『アメリカ革命』(中公新書)の中で筆者が明らかにしたのは、建国者たち(女性も当然いたので「建国の父」という言葉は使わない)は一致団結どころか、相次ぐ対立の中で革命を遂行したという事実である。例えば、後の南北戦争につながるような北部と南部の対立はすでにみられた。だが、彼らは分断されつつも、革命を成功へと導いた。
「内乱」すら懸念の激論
これは逆説的な話である。分断や分極化は基本的によくないと私たちはつい思う。それは国を弱体化させてしまうというのが一般的な感覚だろう。では、なぜ米国革命はそのような直感に反する成功をみせたのだろうか。
対立する党派を最初から前提として国家を創設したから、というのが一つの説明だ。合衆国連邦憲法制定の中心人物だったジェームズ・マディソンは、人間がそれぞれ異なる価値観を持つ以上、いくつかに政治的な党派が分かれるのは不可避だと述べた。ならば人間にできるのは、一つの大きな党派が、ほかの小さな党派をのみ込んで少数を迫害せぬよう、制度設計をするのみである。
具体的にはどうするか。国家規模を大きくすればよい。これは「大きな共和国」と呼ばれる議論である。国家の規模…
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週刊エコノミスト
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