教養・歴史 歴史に学ぶ世界経済

無国籍通貨に転換したゴールド 過去四半世紀で価値10倍超 小菅努

新しい時代の「有事の金買い」が始まっている…… Bloomberg
新しい時代の「有事の金買い」が始まっている…… Bloomberg

 金利を生まない資産であるゴールド。25年ほど前まで「金は過去の遺物になった」という見方が目立ったが、評価が大きく変わっている。

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 金は長い歴史を有する資産である。世界最古の金貨は紀元前670年ごろ、リディア王国(現在のトルコ西部)で作られた「エレクトロン貨」といわれている。金価格が株価や為替相場のように刻々と変動するようになったのは1970年代以降だ。一般投資家が金の値動きに投資できるようになってから50年程度と、実は歴史が短い資産でもある。

 金は70年代まで、各国の政府や中央銀行、国際協定の管理下にあった。その時代は主に貿易や国際的な決済の手段として使われていた。金を所有・取引したのは政府や中銀であり、個人や企業による売買は制限されていた。

 米国の場合、フランクリン・ルーズベルト大統領が33年、金の個人所有を禁止し、政府に売却することを義務付ける大統領令を出した。米政府が金の個人所有を合法化したのは74年だ。一般の投資家が金を購入・保有できるようになってから今年でちょうど50年となる。現在、国際的な金価格の指標となっているニューヨーク金先物取引も74年に始まった。金価格の長期チャートが74年前後を起点とすることが多いのは、こうした経緯による。

 先進国の多くは19世紀後半から20世紀初頭にかけて、保有する金の量によって自国通貨の価値を決定する「金本位制」を採用した。各国の政府や中銀は自国通貨を一定量の金と交換することを約束し、金の保有量は国力そのものだった。

 第一次世界大戦にともなう戦費調達のため、各国が通貨を大量発行した結果、金本位制は維持できなくなり、崩壊した。第二次世界大戦後に発足した国際的な通貨制度「ブレトンウッズ体制」は、各国通貨と米ドルの交換比率を固定し、ドルだけが金との交換比率を固定する「ドル・金本位制」を規定した。公式価格は1トロイオンス(約31.1グラム)=35ドルと決まった。

 しかし、ドルの供給過剰によって各国中銀が保有するドルは増え続けた。各国は米国に対し、保有するドルを金に交換するよう圧力を強めた。それに応じた米国の金準備は減少し、ドルと金の固定レートの維持は困難になった。

「過去の遺物」との見方も

 事態を受け、米国のニクソン大統領は71年8月、ドルと金の交換停止を発表し(ニクソン・ショック)、ブレトンウッズ体制は事実上崩壊した。主要国の通貨はそれ以降、変動相場制に移行し、金価格は市場によって決まるようになった。金と通貨を固定価格で交換する体制が名実ともに終了した。「通貨制度の中で金が担った中心的役割は終わった」といわれた。

 70年代、石油危機、東西冷戦、米国の経常赤字と財政赤字、ドル相場などの動向を見ながら金価格は変動した。最高値は長く80年1月の873・00ドルだった。2度にわたる石油危機に伴う…

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