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経済を停滞させるコストプッシュ型インフレは再来するか 井堀利宏

食品スーパーの店頭。物価上昇を実感することが増えた(福岡市中央区で5月21日)
食品スーパーの店頭。物価上昇を実感することが増えた(福岡市中央区で5月21日)

 物価変動の歴史をひもとくと、数々の社会変動や混乱の歴史と重なる。日本も終戦直後やオイルショックでハイパーインフレを経験した。

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 第二次世界大戦後の世界、特に日米のインフレの状況を振り返ると、1940年代後半と70年代の非常時に10%を超える大きなインフレを記録している。その間の平時はインフレ率が好況期に高くなり、不況期に低くなっているが、10%を超える高いインフレは起きていない。

 インフレには二つの形態がある。「ディマンドプル・インフレ」と「コストプッシュ・インフレ」である。平時はディマンドプル型のインフレが一般的である。これは経済活性化を伴う需要の増加によって引き起こされる。

 需要が増えると、企業は供給を増やし、雇用も増えるので、失業率は低下し、好況になる。日米などの先進諸国は70年ごろまで、こうしたインフレを経験していた。

 日本でも、60年以降の高度成長期に物価上昇を上回る賃金上昇が生じていた。「三種の神器」と呼ばれた家電製品が人気となり、新しいモノの購入意欲も旺盛だった。団塊の世代が働き盛りを迎え、労働力人口も増加した。良好な業績を背景に、企業の設備投資が活発になって生産量も増加して、経済成長が持続する好循環が生じていた。この時期のインフレは好況期に高くなったが、極端な高率でもなかった。

 極端な高インフレであるハイパーインフレーションは、戦争に敗北して経済が大きく疲弊した時など、自国通貨の信用が失われる場合に起こる。第一次世界大戦で敗北した1920年代のドイツでは、ハイパーインフレが起きて国民の不満が高まり、それがナチスの台頭につながった。日本では太平洋戦争直後の40年代後半に高いインフレが生じて、戦中に発行された戦時国債が紙くずになった。

 また、コストプッシュ・インフレも非常時のインフレである。これは、モノを供給するコストが大幅に上昇することで生じ、70年代の2度にわたるオイルショックがその好例である。当時、産油国であるアラブ諸国は石油の生産を削減する戦略を取った。

2ケタ上昇の「狂乱物価」

 これによって、石油価格は一気に高騰し、さまざまなモノを生産するコストが上昇し、世界各国でインフレ率が上昇した。この時の物価上昇は「狂乱物価」とよばれ、日本では消費者物価上昇率が73年は11.7%、74年には24.5%まで高まった。

 コストプッシュ・インフレが深刻化すると、スタグフレーション(景気の停滞・不況とインフレの同時進行)に陥る。企業は原材料などのコストの上昇によって、収益が減少する。販売価格を値上げして収益の改善を図ろうとしても、企業の経営は苦しい。そのため、雇用需要も減退し、失業率が増加して、経済の停滞へとつながる。

 70年代に発生したオイルショックは、日米など世界各国でスタグフレーションをもたらした。物価上昇だけではなく、景気も低迷したために、日本ではそれまで年平均で10%程度の実質成長率を記録していた高度経済成長が終わりを迎えた。

 90年以降は、物価が上昇しないデフレが生じた。物価が安いままだと、経済活性化に…

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