教養・歴史 歴史に学ぶ世界経済

リチウムイオン電池の世界シェア首座は日本勢から中韓へ 佐藤登

北京モーターショーで車載用バッテリーをアピールする中国CATLのブース(2024年4月)(Bloomberg)
北京モーターショーで車載用バッテリーをアピールする中国CATLのブース(2024年4月)(Bloomberg)

 ソニーが世界で最初に量産化に成功したリチウムイオン電池。2000年代初めは、三洋電機、松下電池工業とともに世界トップ3だった。

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 充放電が可能な2次電池として現在も主流の一つである鉛蓄電池は、フランスの科学者が1859年に発明した。実用化に向けては島津製作所が95年に試作を始め、9年後に国産第1号を納入した。99年にはスウェーデン人がニッケル・カドミウム蓄電池、1900年には米国のエジソンがニッケル・鉄蓄電池を発明している。日本では三洋電機と松下電器産業(現パナソニックホールディングス=HD)が65年、民生用としてニッケル・カドミウム蓄電池の国内生産を始めた。90年には世界に先駆けてニッケル金属水素化物電池の国内生産が始まり、日本の電池産業は一気に開花した。

 さらに、リチウムイオン電池(LiB)の実用化に成功したことで黄金期を迎えた。同電池は80年代に基礎研究が始まり、旭化成名誉フェローの吉野彰氏が先駆者の一人となって世界をリードした(同氏は2019年にノーベル化学賞を受賞)。91年にはソニーが世界で初めて量産に成功し、高い評価を受けた。また、95年に登場した米マイクロソフトのパソコン用OS(基本ソフト)「ウィンドウズ95」がきっかけとなり、主にノートパソコン用のLiBの需要が一気に拡大した。

 筆者は04年、ホンダを退社して韓国電池大手サムスンSDIに移籍した。当時、LiBのグローバル市場シェアは三洋電機、ソニー、松下電池工業(現パナソニックHD)に次ぐ世界4位だったが、三洋を追い越そうとして性能や品質面の向上に注力し、マーケティングやコストダウンの戦略を実行していた。ノートパソコン、携帯電話、デジタルビデオカメラなどのモバイル製品用LiBは06年まで、技術力やブランド力が優る日本勢が圧倒的に強かった。日本メーカーがモバイル製品で優位にあったことも大きな要因だった。

 しかし、07年に日韓のシェアが逆転し、サムスンSDIは10年に世界首位の座を射止めた。その後、16年の市場シェアは韓国勢、日本勢、中国勢の順だったが、シェアが30%近かったサムスンSDIが赤字に転落するなど、各社は惨憺(さんたん)たる状況だった。逆風の理由は中国勢の躍進で、TDKの子会社で香港に本社を置くアンプレックステクノロジー(ATL、新能源科技)が、中国市場や米アップルとのビジネスで旋風を巻き起こしたことに象徴される。

CATL、BYDが躍進

 車載用では、三菱自動車が09年に発売した電気自動車(EV)「i-MiEV」にLiBを搭載し、日産自動車が10年に発売したEV「リーフ」にも搭載した。その後、中国は「電池強国」、韓国は「世界の電池最強国」、欧州連合(EU)は「脱アジア、EU独自の電池産業」、米国は「車載電池は経済安全保障」という目標を立て、国が財政支…

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