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円安要因はデジタル赤字だけじゃない より大きかったコンサル・保険料の赤字 登地孝行
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近年、円安要因の一つとされる経常収支における「デジタル赤字」だが、よく中身を精査するとデジタルとは言い切れない。
保険の赤字拡大ペースは減速見込み
財務省が8月に発表した2024年上半期の国際収支統計(速報値)で、海外との取引状況全体を表す経常収支は、前年比59.2%増の12兆6817億円の黒字で、上期として過去2番目の規模となった。
経常収支は輸出から輸入を差し引いた貿易収支や、外国との投資のやり取りの収支を表す第1次所得収支、インバウンド(訪日客)からアウトバウンド(日本人海外旅行客)を引いた旅行収支やデジタル関連の収支を含むサービス収支などで構成される。
24年上半期は第1次所得収支の黒字が増加した一方、貿易収支とサービス収支はいずれも赤字となり、21年下半期からこの構図が続いている。この貿易収支とサービス収支を中心に構成されるキャッシュフローを伴う部分の経常収支が為替取引に影響することで構造的な円安要因になるとして、このところ注目度が高まっている。
日本に戻らない円
第1次所得収支中で、最も大きいのは海外子会社からの配当などで得られる「直接投資収益」で、黒字額は11兆4022億円と前年同期比で4.5%伸びた。同期間の円安の進展を受けて、円換算額が押し上げられた。
日本企業による対外直接投資は10年以降に急増しており、対外純資産残高の半分を占める。しかし、対外直接投資で出て行った円は海外における資産として蓄積され、円に戻して日本に環流するとは限らない。
貿易収支については、資源価格はピークアウトしたが、輸入額は高い水準を維持している。一方で輸出額の伸びは限定的にとどまっており、21年下半期から貿易赤字が続いている。
また、サービス収支の赤字は1兆7511億円となり、赤字額は前年から15.4%縮小した。インバウンド需要の高まりによって、旅行収支の黒字額は前年から1.6倍超となり、半期として過去最高を更新した。
日銀版「デジタル収支」
他方で、海外IT企業へのデジタルサービスの使用料の支払いといった「デジタル赤字」と呼ばれる項目は赤字額の拡大基調が続いている。
例えば日銀レビュー(2023年)では、「通信・コンピューター・情報サービス」に加えて、音楽・映像の配信料が含まれる著作権等使用料やウェブ広告売買代金が計上される「専門・コンサルティングサービス」もデジタル関連収…
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週刊エコノミスト
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