経済・企業 国際収支

円安要因はデジタル赤字だけじゃない より大きかったコンサル・保険料の赤字 登地孝行

インバウンドは好調だが(東京都渋谷区で2024年7月)
インバウンドは好調だが(東京都渋谷区で2024年7月)

 近年、円安要因の一つとされる経常収支における「デジタル赤字」だが、よく中身を精査するとデジタルとは言い切れない。

保険の赤字拡大ペースは減速見込み

 財務省が8月に発表した2024年上半期の国際収支統計(速報値)で、海外との取引状況全体を表す経常収支は、前年比59.2%増の12兆6817億円の黒字で、上期として過去2番目の規模となった。

 経常収支は輸出から輸入を差し引いた貿易収支や、外国との投資のやり取りの収支を表す第1次所得収支、インバウンド(訪日客)からアウトバウンド(日本人海外旅行客)を引いた旅行収支やデジタル関連の収支を含むサービス収支などで構成される。

 24年上半期は第1次所得収支の黒字が増加した一方、貿易収支とサービス収支はいずれも赤字となり、21年下半期からこの構図が続いている。この貿易収支とサービス収支を中心に構成されるキャッシュフローを伴う部分の経常収支が為替取引に影響することで構造的な円安要因になるとして、このところ注目度が高まっている。

日本に戻らない円

 第1次所得収支中で、最も大きいのは海外子会社からの配当などで得られる「直接投資収益」で、黒字額は11兆4022億円と前年同期比で4.5%伸びた。同期間の円安の進展を受けて、円換算額が押し上げられた。

 日本企業による対外直接投資は10年以降に急増しており、対外純資産残高の半分を占める。しかし、対外直接投資で出て行った円は海外における資産として蓄積され、円に戻して日本に環流するとは限らない。

 貿易収支については、資源価格はピークアウトしたが、輸入額は高い水準を維持している。一方で輸出額の伸びは限定的にとどまっており、21年下半期から貿易赤字が続いている。

 また、サービス収支の赤字は1兆7511億円となり、赤字額は前年から15.4%縮小した。インバウンド需要の高まりによって、旅行収支の黒字額は前年から1.6倍超となり、半期として過去最高を更新した。

日銀版「デジタル収支」

 他方で、海外IT企業へのデジタルサービスの使用料の支払いといった「デジタル赤字」と呼ばれる項目は赤字額の拡大基調が続いている。

 例えば日銀レビュー(2023年)では、「通信・コンピューター・情報サービス」に加えて、音楽・映像の配信料が含まれる著作権等使用料やウェブ広告売買代金が計上される「専門・コンサルティングサービス」もデジタル関連収…

残り1679文字(全文2679文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

10月29日・11月5日合併号

セブンショック 次の標的は18 日本企業よ!買収提案は起死回生のチャンスだ■荒木涼子20 セブンの判断 新時代を切り開いた特別委設置■松本大21 安すぎる買収提案 創業家に物言わず退任した鈴木敏文氏の責任は重大だ■鈴木孝之22 クシュタール解剖 同業を積極買収で急成長 高い投資効率を維持■児玉万里子 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事