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「ICTの電力需要拡大で原発不可欠」論が物語でしかない三つの理由 明日香寿川
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データセンター建設などICT部門の急拡大で電力需要や二酸化炭素排出量が激増するため原発が必要というストーリーは、実態を無視した単純すぎるナラティブ(物語)だ。
2050年に電力需要が1.37倍は“激増”か
「データセンターやAI(人工知能)などの情報通信技術(ICT)部門が急激に拡大している。これに伴い、世界および日本の電力需要および二酸化炭素(CO₂)排出量が激増する。ゆえに、原発推進が必要」という、一見まともな三段論法のように聞こえる議論を最近、よく聞く。先日の自民党総裁選の際にも、何人かの候補者が原発推進の理由として、このデータセンターやAI拡大による電力消費激増を挙げていた。
しかしこの議論は、後述の三つの理由で明らかに間違った三段論法だ。エネルギーや温暖化問題に関しては、実情とは異なる議論や誤解が多いと筆者は感じている。他方、現在国内においては年末にかけて、エネルギー政策の骨格を決める第7次エネルギー基本計画に関する本格的な議論がなされ、2035年における温室効果ガス排出削減目標も決定される極めて重要な時だ。
そこで、24年9月9日、筆者が関わる研究者グループは、議論を正して誤解を解くべく、「グリーントランジション2035(35年に再エネ電力割合とCO₂排出削減のダブル80%を実現する経済合理的なシナリオ)」、略して「グリトラ2035」を発表した。政府による現行のエネルギー・温暖化政策に対し、より経済合理的な代替案を提案している。
さて、冒頭の「データセンター・AI拡大による電力消費増大で原発が必要」という議論だが、グリトラ2035でも詳報しているが以下の三つの理由で三段論法として間違っている。
第一は、ICT部門の電力消費量が、一国の電力消費量全体に占める割合の大きさに対する無理解である。例えば22年の政府統計によると、データセンターの電力消費量は日本全体の0.5%程度である。すなわち、データセンターの数が大きく増えたとしても、日本全体の電力消費量が激増することはありえない。まさに“木を見て森を見ず”となっていないだろうか。
第二は、しばしば「急激に拡大」や「激増」といった言葉が使われるが、それが今なのか、それとも50年までにかけてなのか、など曖昧なまま議論されていることである。
たとえば、政府審議会などでよく引用される、大手電力会社のシンクタンク「電力中…
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週刊エコノミスト
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