国際・政治 暴走するイスラエル
ヒズボラ指導者殺害の裏にあるイスラエルの思惑 福富満久
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中東地域の力の均衡を変える「必要な一歩」とするヒズボラ指導者殺害には、イスラエルの二つの思惑がある。しかし、今の戦争はパレスチナへの不法占拠が根源だと世界は忘れてはいけない。
パレスチナの不法占領こそ戦争の根源
イスラエルの暴走が止まらない。イスラエル空軍がレバノンの首都ベイルート南郊にあるイスラム教シーア派組織ヒズボラの拠点を9月27日に空爆、イスラエルのネタニヤフ首相は翌28日、その指導者ハッサン・ナスララ師を殺害したことを認めた。
ナスララ師はヒズボラを32年間率いて勢力を拡大したカリスマであり、シーア派の総本山であるイランが後ろ盾となってきた。イランはそのイスラエルに対し10月2日、報復として180発以上のミサイルを発射した。都市部を狙ったものではなく、あくまでイスラエル軍の拠点を狙った「限定攻撃」だったが、中東情勢はこれまでにないほど緊迫度を増している。
イスラエル軍は、ヒズボラの幹部の一人で南部戦線を指揮していたアリ・カラキ司令官も殺害したとしている。イスラエルは7月31日にも、同じく幹部の一人でイスマイル・ハニヤ政治局長をイランのテヘランで殺害した。同氏はイランのマスード・ペゼシュキアン新大統領の宣誓式のためテヘラン入りしていたのだった。
9月17日には、レバノン各地で、ヒズボラのメンバーが使用するポケベルや無線機などの通信機器が相次いで爆発し、少なくとも32人が死亡、3000人以上が負傷した事件もイスラエルの仕業と見られている。10月1日未明には、イスラエル軍(IDF)は国境を越えてレバノンに侵入し、地上侵攻を開始。IDFは「ヒズボラの拠点のみを標的とした」作戦だとしたが、レバノン当局によると、この戦闘で100万人近くが家を追われた可能性があると、英BBC放送が報じている。
「抵抗の枢軸」の制圧
ネタニヤフ首相は、ナスララ師の殺害を今後何年にもわたって中東のパワーバランスを変えるために「必要な一歩だった」と説明した。では、パワーバランスを変えるため、という言葉の裏には何があるのだろうか。
イスラエルの第一の狙いは、イラン率いる「抵抗の枢軸」を制圧することにある。抵抗の枢軸とは、中東各地でイランが支援する武装組織のネットワークを指す。
現在イスラエルと戦う「ハマス」や「ヒズボラ」に加え、イラクやシリアで活動する「カタイブ・ヒズボラ」、イエメンの反政府勢力でシーア派に近い「フーシ派」などが含まれる。領土問題で長年敵対するシリアのアサド大統領もシーア派系の「アラウィ派」に属する。これらシーア派の「敵」に囲まれた状況をネタニヤフ首相は打開したいと考えているのだ(図)。
そのためガザでの「完全勝利」と、イスラエル北部国境地帯におけるヒズボラの脅威の排除をイスラエルは目下の目標としているが、究極の目標は、抵抗枢軸のリーダーであるイランに対して直接行動すると…
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週刊エコノミスト
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